第379話 すごい戦い
「そういうわけで、俺達はお前を許すわけにはいかないんだ。師匠の無念を晴らすのも、弟子の役目だからな」
「いやぁ。まずは愛想をつかすのが先だと思うぞ」
志が立派なのはいいんだけどさ。師匠はちゃんと見極めて選ばないと。
「まぁ話はわかった。仇討ちって言ってもどうするんだ? 人数を集めて一斉に襲いかかってくる感じか? 別にそれでも構わないけど」
「大した自信だ。チェチェン老を倒したことで、増長しているのか?」
「最初からこんなんだよ」
「そうか。だが俺達にも冒険者としての誇りがある。多勢に無勢という卑怯な真似はしたくない」
サニーは背中の大剣を抜く。
幅広い片刃の刀身が、朝の陽光を浴びて黒く輝いた。
「この中じゃ俺が一番強い。代表としてやらせてもらう」
「タイマンってわけか。上等だ」
なんというか、騎士道精神的なサムシングを感じる。
恨みだけじゃなく、ちゃんと相手に敬意をもって接してくるところは、素直に称賛したいところだ。
こちらもその礼に応じないといけないだろう。
いや、待てよ。
「ちょっと待った」
「なんだ」
「いやさ。俺はギルド長から依頼された仕事に行く最中なんだよ。だから、邪魔されると都合が悪いっていうか、申し訳ないっていうか」
「申し訳ないだと?」
「だって、お前らが俺を邪魔しちまうと、なんとなくペナルティみたいなのがありそうだろ? ギルド長の依頼を妨げたってことで」
俺の言葉に、サニーは鼻を鳴らす。
「要らない心配だ。気を遣ってくれなくていい」
「そうかい」
本人がそう言うなら遠慮はいらないか。
俺は更に一歩前に出る。
「長引かせると近所迷惑になる。こいよサニー」
「武器を持たなくていいのか?」
「俺の武器はここにある」
そう言って自分の胸をとんとんと叩く俺。かっこよすぎだろ。
「ならいい。行くぞ。ロートス・アルバレス……!」
サニーは真正面から突っ込んでくる。
大剣を振りかぶっての斬り下ろし。大味な攻撃だが、動きに無駄がなく洗練されているせいか、隙はまったくない。
そして速い。
踏み込みの速度は想像を絶する領域だった。
「あぶないっ!」
と言いながら、俺は身をかわす。
紙一重で回避するも、追撃の手は緩まない。
「うわっ! あぶなっ!」
怒涛の連撃を繰り出してくるサニーに対して、俺は回避に集中するしかなかった。
剣筋はなんとか見えるが、反撃する隙は無い。
「ちょ、やめろって!」
何十回目かに迫る剣を手で受け流す。
それに驚いたサニーは、さっと身を引いて距離を取った。
ふう。あぶなかったぜ。
サニーは青い両目でじっと俺を見据える。
騒がしいのは観戦する冒険者達だ。
「なんだあの戦いは……! ハイレベルすぎる……!」
「ああ。目で追うのがやっとだ」
「サニーさんの剣技もパネェけど、あのガキの動きも異次元だぞ」
「すごい……!」
「マジで半端ない戦いよ!」
「なに言ってやがる。サニーさんにとっちゃあんなの準備運動だ」
「その通りです。本番は、ここからですよ」
なんか意味深な言葉が聞こえてくる。
その間に、サニーが剣を構え直していた。
「いい反応だ。ロートス・アルバレス。流石はわが師チェチェンを下しただけのことはある」
「ありがとう」
「ここからは俺も本気だ。はあっ!」
気合と共に爆音が響く。そして、サニーの全身から金色の光が放たれた。
なんだあれは。
スキル? いや、魔法か?
だが〈妙なる祈り〉を発動してもオーラは消えない。
そもそも最初からサニーはスキルも魔法も使っていない。
なんなんだ。あれは。
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