第340話 ふたりともでかい
「意味不明だな」
何を言っているのかまったく理解できない。
「俺の名前が入っているってのが、また気持ち悪いしよ」
「あはは~。それはちょっとわかるかも~」
アルドリーゼは気力の感じられない笑いをあげている。
「大体なんだよそれ。いつ書かれたものなんだ」
「ざっくり千年前だね~。はっきりしたことは余にもわからないけど~」
千年前ね。かなり昔だな。
そんな時代に俺の転生が予言されていたってことか? それはそれでなんだか荒唐無稽な話だな。
「ご主人様」
「ん?」
サラがこそこそと小声を囁く。
「千年前って、エストが出てきたくらいの時ですよ。女神の記憶にあった気がします」
「……マジか」
神族がエストを創り出したってことは、人間と神族が争った時代ってわけか。その時には既にファルトゥールは封じられていたはずだ。
なるほど。旧き神、偽りの太陽、新時代。なんとなく理解できる部分はあるな。
「その予言。今の時代に合わせて解読することはできないのか?」
「ま~ある程度はできてるんだけどね~。ある程度っていうかちょっとだけ~? そういう専門家がうちにはいないからね~」
ふむ。
いわゆるこの世界の真実とやらに詳しいやつなら、この予言の意味も分かるのかもしれないな。
帝国の連中とか、あるいは機関にいたフェザールとか。
いや、ここはやっぱりアカネだろうな。あいつはミステリアスすぎて底が知れないし、こういうことに関する知識ならめちゃありそうだ。そもそもがヘッケラー機関の創設者だしな。
「ちょっと失礼」
俺は手の中に念話灯を生み出す。アカネへのホットラインだ。
発信。
『お? なんじゃ。ロートスか。どうしたんじゃ』
これは転生前でも思っていたことなんだけど、電話をかけてすぐに出てくれる人に対してはすごい好感を抱くよな。
逆に全然出ずに折り返しもよこさない奴は一日中何やってんだって感じになる。
それはともかく。
「急にすまんな。ちょっと聞きたいことがあってよ。時間大丈夫か?」
『なんじゃ改まって。別にかまわんのじゃ。坊やの部屋を掃除していただけだしの』
「ああ。ジェルド族の予言のことなんだけど――」
『待てロートス』
アカネの声色が瞬時に固くなる。
『今どこにおる』
「へ? えっと……アインアッカ村だ。ジェルド族の女王が目の前にいるけど」
『マッサ・ニャラブが国境を侵犯したというのはまことじゃったか』
「まぁ、ぱっと見平和だけどな」
『わかった。わらわもすぐそっちへ行くのじゃ』
「すぐって言ったって」
魔法学園からここまで結構な距離があるぞ。
いや、アカネのことだ。来るというなら本当にすぐ来そうだよな。
直後。テントの入口がバサッという音を立てて開かれた。
「待たせたの」
のじゃ美女モードのアカネ現る。和服からはだけた白い肩と胸元、太もも。長い黒髪。
やっぱりな。
連絡したらすぐ駆けつけてくれるって、なんかスーパーヒーローじみているな。
「え~? なに~? 招かれざる客が来たよ~」
「俺が呼んだ」
「ここ余のテントなんだけど~」
「自分のことを棚に上げるなよ。そっちだって勝手に人の国に入ってきてんだろ」
「それを言われちゃ言い返せないな~。論破されちゃった~」
アルドリーゼとそんな会話をしているうちに、アカネが大股で俺の隣へとやってきていた。
「おぬしがジェルドの女王アルドリーゼじゃな」
「そだよ~。そういうあなたは~?」
「わらわはアカネという。しがない奉公人じゃよ」
「ふ~ん」
玉座に座るアルドリーゼ。
腰に手を当てて佇むアカネ。
ナイスバディの美女二人が視線を交わしただけで、この場の空気が一気に変わった。
なんだろう。
これはあれだ。実力者同士が相まみえる時の雰囲気。
テント内の女兵士はひりついた空気に表情を強張らせている。
サラは俺にしがみつき、アイリスはのほほんとしている。
当人以外で、平然としているのは俺とアイリスくらいか。
そう考えると、俺もだいぶ強くなったんだなぁ。
この村を出た時の自分とは大違いだわ。
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