第341話 解説するよ
「アカネさんとやらは~、一体ここに何をしに来たの~?」
「ジェルド族の予言について聞きたいと、そこのロートスに呼ばれたもんでの」
「それはなんとなく分かるけど~。あなたにわかるの~? 見たところ、あなた東方の出だよね~? ジェルド族についてわかるのかな~?」
「問題ないのじゃ。この世界のことなら、何でもとは言わんが、それなりに知っておるつもりじゃ」
「ふ~ん」
アカネが東方の出だって? 初代ダーメンズ家の末女だと聞いていたが、純粋な王国民じゃないってことか?
ますます謎だな。
「ジェルド族の予言。わらわにも見せてもらえるかの」
「いいよ~。はい」
アルドリーゼが石板を無造作に放り投げると、アカネはそれを片手でキャッチする。
そんな雑な扱いでいいのかよ。大切なものなんじゃないのか。
「ふむ」
アカネは石板に目を落とす。
俺も隣から覗き込んでみるが、読めない。王国文字じゃないな。ジェルド族の文字だろうか。なので俺は視線を豊満な胸の谷間に移した。でかい。
「なるほど。実に明瞭な予言じゃな。そこまで難解というわけではないのじゃ」
「そうなのか?」
「予備知識があればの」
アカネは石板をぽんと叩く。
「アルドリーゼよ。解説の前にひとつ聞かせてくれんか?」
「な~に~?」
「ジェルド族の予言。こいつは永きに渡って秘匿されてきた民族としての秘中の秘じゃろう。なぜ今になって他民族に見せたのじゃ」
「秘密なのは変わってないよ~。見せるべき人に見せてるだけ~」
「それはロートスのことか?」
「そ~。あとは彼が見せてもいいって言った人だね~」
要するに、俺の影響力はすごいってことだな。
冗談はさておき。
「つまり、この予言は最初から俺に見せてもいいことになってたのか?」
「そゆこと~。なんたって種馬くんは救世神だもんね~」
種馬なのか救世神なのかどっちなんだ。
どっちもか。
「よい。ならば簡単に説明してやろうかの」
「よろしく~」
アルドリーゼが覇気のない拍手を送る。ジェルド族にも拍手の文化があるのか。
「一文ずついくのじゃ。まずは最初の『今や偽りの太陽が天を覆い、深淵の月が闇夜を照らす』の文言じゃが、これは簡単じゃの。偽りの太陽、深淵の月とは、いわゆる最高神エストを指しておる。神族によってエストが生み出され、人間が支配された様子を表しておるのじゃ」
そういうことか。そういわれると確かに分かりやすいな。たぶん。
「その次。『千年の呪縛に絡まる憐れなる生命は、虚ろなる繁栄に身を焦がし、真実の価値を見誤る』という部分。言い換えれば、千年間もエストに支配された者達は、運命補強によって得た誤った価値観の上に文明を築いている、といったところか。今でいうスキル至上主義による繁栄のことじゃな」
「急に難しくなりましたね……」
サラの呟きには、俺も同感だった。
「ここで驚くべきは、千という年数が書かれておることじゃな。エストの呪縛が千年で終わるということが明確に示唆されておる」
「なるほど~」
アルドリーゼがうんうんと頷く。本当に分かっているのだろうか。
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