第317話 勝利の味を覚えたら、もう忘れられないんじゃ

「いくぜ……!」


 ゆっくりと前に出る。

 敵の戦力を簡単に分析してみる。前衛の黒騎士アロンダイトと、後衛のリリス。セオリーから行くとリリスを先に叩きたいところだが、それにはアロンダイトが邪魔だ。

 というわけで、まずはアロンダイトの方を処理するしかない。相手の思う壺かもしれないけど、それを真正面からぶち破るのが俺らしいだろ。


 そんなことを考えていると、先に敵が動いていた。リリスが放った無数のレーザーに合わせて、アロンダイトが正面から肉薄してくる。

 これはまずい。さっきは華麗なるバックステップで回避できたが、今回はリリスのレーザーが俺の退路を塞いでいる。動けばレーザーの餌食、動かなければ大剣の錆になっちまう。


 常人ならな。


 構わずバックステップを踏む。当然、頭上から飛来したレーザーが俺の身体にいくつもの穴を空けることになる。だが、人間離れした動体視力と反射神経、そして身体能力を活かし、致命傷を避ける。レーザーの軌道を見切り、体内の主要な臓器と血管を避けるようにしたのだ。そうなれば、多少の出血と痛みだけで済む。傷は派手でも、そこまでダメージはない。

 レーザーの雨の中、大剣を上段に構えたアロンダイトが突っ込んでくる。奴の鎧はレーザーを防ぐほどの防御力のようだ。フレンドリーファイアは望めない。


 だが。


「関係ねぇよなぁ!」


 バックステップからの急速前進。アロンダイトが大剣を振り下ろす前に懐に入り込み、殺る算段だ。

 俺の思惑はばっちりハマった。

 握りしめた拳が、アロンダイトの胸部に炸裂する。


 イメージするんだ。この拳は最強だと。

 すべてを破壊する究極のパンチだと。


「砕け散れ」


 イメージをより確固たるものにするため、俺は強く呟いた。

 淡い光を纏った拳は、見事にアロンダイトを木っ端微塵に粉砕した。

 跡形も残らない。アロンダイトという人工モンスターが存在したほんの僅かな痕跡すら残さず消滅。


 やったぜ。


(へぇ? これはこれは。キミにはいつも驚かされる。そのアロンダイト、最上級魔法の直撃にも耐える装甲を積んでいたんだけど)


 相変わらずヘラヘラと笑うやつだ。


(それにリリスの光線だって、並の城壁なら紙切れのように貫くんだけどね)


 そんなもんをいくつも撃ちやがったのか。

 俺じゃなかったら即死だった。


「話にならねぇな」


 俺は手を振り上げる。

 そこから生まれた波動が、リリスの纏う衣装だけを吹き飛ばした。

 露わになった肢体を必死に隠そうと、リリスはあたふたし始める。


(服を……? どういうつもりだい? 羞恥心を煽れば彼女はより強くなる)


「てめぇの趣味は大変よろしい。いいセンスだ。けどな……一つだけ言っておくことがある」


 次の瞬間、リリスの身体が光に包まれ、それは新たな服となった。

 転生前の母校である高校の制服。紺のブレザー、白いブラウス、臙脂色のネクタイ、膝丈のプリーツスカート、白いハイソックスにローファー。


「俺は露出の多い衣装よりも、地味系女学生っぽい方がビビっとくるんだわ。見えない方が想像力を掻き立てられる。その内側に思いを馳せる。そして脱がした時の高揚感といったら、筆舌に尽くしがたい」


(馬鹿な……! こんなことが……!)


 リリスは新しく着せられた服を見て、大いに喜んでいるようだった。

 そこに羞恥心など微塵もなく、すでに戦意は感じられない。


「チェックメイトだ。マシなんとか五世」

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