第318話 大逆転

 勝利を確信した、次の瞬間。

 俺の胸から、一本の棘が突き出した。


「は?」


 心臓を突き破った刃は鮮血にまみれている。

 傷口から漏れ出る夥しい量の血液。


(はは。限界が来たようだね)


 力が抜ける。膝をついてしまう。


(別にこの光が効かないわけじゃないんだね。ただ、効果が表れるまで人より時間がかかるだけ。その理由は定かではないけど)


 ベラベラとうるさい奴だ。頭に響く。

 くそ。


 とりあえず動かないと。このまま光を浴び続けるわけにはいかない。

 この光の本質が分からない以上、無効化することもできないんだ。


 なんとか立ち上がり、本丸へと向かう。建物の中に入っちまえばこっちのもんだ。

 よたよたと歩いて進みながらも、俺の全身から棘が生えてくる。勢いよく肉を突き破り、真っ赤な血を散らせて。

 マジでわけわかんねぇ。なんなんだよこの現象は。


(頑張るねぇ……そんなにこのドルイドの小娘が大切かい?)


 うるせぇな。


(キミの周りには魅力的な女性がたくさんいるじゃないか。この娘一人にそこまで執着する理由があるのかい? 理解に苦しむね)


 黙れよ。


「いい女がたくさんいるからってなんだってんだ。サラはたった一人しかいねぇだろうが」


(呆れた……強欲な男だねぇ)


「そうじゃねぇ!」


 いい女を侍らせたいとか、ハーレムを作りたいとか、そんなレベルの話をしてんじゃねぇんだよ。


「見ろよこの血。俺みたいな奴にもちゃんとあったかい血が流れてる。だったら全員そうだろうが。アイテムや道具みたいに替えの利くもんじゃねぇ。一人一人血の通った、かけがえのない人なんだよ……!」


 足を引きずり、やっとの思いで本丸の前にたどり着く。


「誰か一人でも欠けちゃあよ……俺がこの世界にきた意味がなくなっちまうだろうが!」


 息が上がっている。

 脚に力が入らない。

 気張ってみても、もう限界だ。


 この光によって与えられた傷には、俺の『妙なる祈り』も及ばない。治すことはできない。

 女神ファルトゥールの力が、俺のチートを上回っているということだろう。


(実に人間らしい考えだ)


 愉快そうな笑い声が響く。


(だけどね。その思考じゃあ神には勝てない。たったひとつの命に振り回され、大局を見失うような者に、世界は統べられないさ)


 クソが。


(これは非情でもなんでもない。むしろ情に溢れている。たかが人間に、神の慈悲が理解できるとも思えないけどね)


 それらしい口をききやがる。


(案外、人の運命を縛っているのは偽神エストでも母なるファルトゥールでもなく、人間自身なのかもしれないね)


 意識が、遠のいていく。


(さようならだ。アルバレスの御子。安らかに眠るといい。この城塞が、キミの墓標になるだろう)


 その言葉を最後に、俺の意識はぷっつりと途絶えた。

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