第316話 たった一人の戦い

(愚かだね。この光は僕にさえ正体のわからない神秘だ。考えなしにその身を晒すなんて自殺行為だよ)


「経験上、考えてもろくなことにならないんでな。むしろ、考えなしに突っ込んだ方が事態が好転してきた節すらあるぜ」


(キミの乏しい人生経験で学んだことなんか、何の役にも立たないよ。賢者は先人から学ぶものだ)


 この状況における先人って誰だよ。


「まぁ、未来の人間からすれば俺が先人ってわけだな」


 広場を歩いていく。光を全身に浴びているが、今のところ異常はない。


(驚いた……一定時間この光を浴びた者は例外なく体内から刃が生えて死に至るんだけどね。これは興味深い。一体どういう理由で、キミが無事なのか)


「それは俺がすげぇからだよ」


(なんの証明にもならない説明ありがとう)


 癇に障る笑いが頭の中に響く。


(そんなキミにご褒美だ)


 その瞬間、地面が大きく振動を始める。

 バランスを崩した俺は片膝をつくが、周囲への警戒は怠らない。

 何をするつもりだ。


 ひときわ強い衝撃。広場の中心から石造りの床に網目状にひびが入る。

 途端、そこに大きな穴が開き、そこから黒い物体が飛び出してきた。


「なんだ?」


 それは漆黒の鎧を纏った大柄な騎士。一振りの大剣を握った角ばったシルエットが、宙に浮いていた。

 黒騎士はそのまま俺に向かってくると、その大剣を躊躇なく振り下ろす。


「あぶなっ!」


 俺はバックステップを踏む。こういう時にはバックステップに限る。バックステップは全てを解決する。

 その信条通り、大剣は一秒前に俺が膝をついていた床を粉砕した。

 轟音が耳朶をぶっ叩く。


(これはまだ試作品だったのだけどね。今更出し惜しみしても仕方ない。モンスター研究によって生み出した人工モンスター。ボクはアロンダイトと名付けた。一体で街一つ壊滅させる戦力を持っている)


「はっ。これがご褒美? いらねぇな。どうせデザインするならおっぱいのでかい姉ちゃんにしろよ」


(もちろんそれも作っているさ)


 なんだと?

 黒騎士が空けた大穴から、ふわふわと浮き出てきた影が一つ。


 バニーガールに酷似した衣装の、背の高いナイスバディな美女だ。黒髪ショートカットに、メガネをかけている。左目尻に泣きボクロ。露出度の高い衣装を着ているくせに、頬を赤らめて肌を隠すような仕草をしている。


(こっちはリリス。ボクの性癖を詰め込んだ一品さ)


「てめぇ……!」


 俺は血が出るんじゃないかというほどに拳を握りしめる。


「こんな出会い方じゃなけりゃ、親友になれたかもしれねぇのによ……!」


 いや、今からでも遅くないかもしれない。

 俺は宙に浮くリリスをガン見する。とことんいらやしい造形をしている。肉のつき方に至ってはもはや芸術だ。


(お気に召したようでなにより。だけど)


 恥ずかしがるリリスが放ったレーザーが、俺の心臓めがけて飛来する。


(そのリリスは羞恥心を力にする。キミが見れば見るほど、強くなってしまうよ?)


 青白いレーザーはどこかで見たことのあるものだ。あれだな、ファルトゥールの像が放ったものとよく似ている。

 力の根源が何か、丸わかりだ。


「へっ。最高じゃねぇか」


 レーザーをデコピンで弾く。すると、いとも簡単に軌道を変えて空に消えていった。

 とりあえず、こいつらをなんとかするか。

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