第314話 無数の死
結果から言うと、コッホ城塞に侵入することはできた。
だが、それがよかったかと聞かれると素直には頷けない。
コッホ城塞の内部は、ひどい有様だった。
そこかしこに死体が転がっている。死屍累々という言葉がチンケに思えてしまうほど、どこを見ても死体の山が積み重なっている。歩く隙間もないほどだ。
「なにこれ……!」
エレノアが口元を押さえて目を逸らす。逸らした先にも死体の山。
紛うことなき地獄絵図だ。
「機関の構成員達と、実験体か? それにしても多すぎる……どういうことだ。一体何が起こってやがる……!」
予想だにしていなかった。
敵が準備万端で待ち構えていることは予想できても、すでに壊滅状態だなんて誰が想像できる? 謎すぎるぞ、これは。
「うぅ……」
うめき声が聞こえる。
生存者がいるのか。
俺は死体の山をかき分け、うめき声の発生源を辿る。
死体の下から出てきたのは、一人の男だった。
「おいあんた。大丈夫か」
「だ、大丈夫じゃないんどいや……助けんかいや、ワレ」
こいつの態度は気にくわないが、そんなことを言っている場合じゃない。
俺はファーストエイドを使用する。
一瞬にして全快する男。
「お……なんじゃいこりゃあ……! あたかも慈母の抱擁じゃわい」
感無量といった風に言うが、俺は慈母じゃないぜ。
「何があった。どうやったらこんな状況になるんだ」
「知らんわいや。何が何だかわからんのじゃいや」
「そんなわけないでしょう。ちゃんと答えなさいよ」
エレノアが眉を顰めて言うが、男は落ち込んだ表情で唇を噛む。
「ああ……!」
男が急に声を上げる。
その視線の先、コッホ城塞の頂上に、琥珀色の光が何度も閃いていた。
「あの光じゃい……! あの光が全部壊してもうたんじゃい……!」
光っている場所は、たしかマシなんとか五世がいた場所だ。
臨天の間とかいったか。
「あれって……」
「何かわかるか? エレノア」
「ええ……あれは強い魔力特有の発光現象よ。だけど、あのレベルで輝いているとなると、相当大きなエネルギーだわ。いいえ、大きいだけじゃない。琥珀色の光は、魔力の濃度が異様に高い時だけに生まれるものよ。それに、あの魔力の波動には覚えがあるわ」
おい。それってまさか。
「サラって子の魔力、だと思う。あれがファルトゥールから簒奪したっていうドルイドの魔力なのね」
なんてこった。
もしそれが本当なら、サラはすでに目覚めているということになる。
エンディオーネがファルトゥールを抑えてくれているうちはいいが、もしファルトゥールが自由になるようなことがあれば、サラの身が危ない。
いや、すでに最悪の事態になっている可能性も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます