第313話 あわてんぼうの英雄
王都での戦闘の影響で魔法学園も休校している。
だからといって学内の人口が大きく減るわけでもなく、朝のキャンパスはそれなりに生徒で賑わっていた。
学園から出ていない連中の中には、外の大変さなどいざ知らず。休みを満喫している者も多い。
だからといってそいつらを責める気はないけどな。
「平和よね。ここだけなんだろうけど」
学園の講堂前広場。
ファルトゥールの塔の周りには野次馬達が集まっている。扉は閉ざされているから、中に入るような馬鹿はいない。だが頂上から落ちてきた瓦礫が散乱しているところもあって、決して安全とは言えない状態だ。
故に教師達によって近寄れないような措置が取られていた。
「まぁ、王都の戦いは王国側の勝ちみたいなもんだからな」
俺とエレノアはその様子を遠巻きに眺めている。
「守る側だものね。でもほとんどロートスのおかげじゃない」
「まぁな」
否定はしない。
俺がチートを使ってスキルと魔法を無効化しなければ、まだ戦いは続いていただろうし、もしかしたら王都陥落、クーデター成功となっていたかもしれない。
どっちの政権がいいとか、そんなことは考えちゃいないが、戦いが早く終わったことは喜ぶべきだろう。巻き込まれた人のことを思えばな。
「そんで? どうしてこんなとこに来たんだ?」
「ちょっと思いついたことがあるの。あのサラって子を助けるのに、あそこに行くんでしょ?」
言葉の途中で、エレノアは視線を上げた。
塔の上空ではコッホ城塞がその威容を見せつけている。
「だったら、塔の頂上から行った方が近いんじゃないかって」
「ウィッキーの話だと、ヘッケラー河の転移装置からじゃないと入れないらしいけどな」
「普通ならね。けど、あなたの力ならなんとかなるかもしれないでしょ?」
ふむ。
たしかに『妙なる祈り』ならなんとかなるかもしれない。というのも、この力の正体はまだはっきりしていないのだ。
エスト由来の力を無効化するとか、物を創造したりとか。運命を変えるといっても、漠然としすぎている。
だが逆に言えば、なんでもできるって考えることも可能だ。
「これは私の勝手な推論だけど」
エレノアがぴんと人差し指を立てる。
「ロートスは運命がエストによって決められてるって思って、それに対抗しようとしてたでしょう? だからエストから生まれたスキルや、それを模倣した魔法を無効化できた。じゃあ、女神ファルトゥールの力、この世界そのものに反抗しようとすれば、同じことができるんじゃないかしら」
「そうか。そして機関はファルトゥールの力の恩恵を享けている。となれば、コッホ城塞を守っている障壁も突破できる」
「そういうこと。都合のいい解釈だけどね」
いいや。おそらくエレノアの言は正しい。
何故なら俺がそういう風に感じたからだ。
ファルトゥールそのものを倒すのは奴も神の力を用いて対抗してくるだろうから難しいとしても、コッホ城塞にかけられた加護くらいなら打ち消せる可能性は高い。
「よし。行くぞエレノア」
「え。今から?」
「当たり前だ。できるだけ急ぐ」
「みんなを呼ばなくてもいいの? アイリスとか」
ここでアイリスの名前が出てくるあたり、やっぱりエレノアの中でも強者のイメージなんだろう。
「行きながら念話灯で伝える。いくぞ!」
「あ、ちょっとロートス!」
俺はエレノアを担ぎ上げ、地を蹴る。
そのまま緩やかに加速しつつ、高度を上げていった。
野次馬達に注目されているが、どうでもいい。
今度こそ、サラを助けるぞ。
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