第305話 一段落つけよう

 俺はパンパンと手を叩く。


「あー。最高に嬉しい話題だけど、今は浮かれてる場合じゃない。ウィッキー、話を続けてくれ」


「照れ隠しっすかー?」


「うるせ」


 俺はウィッキーのおっぱいをつつく。


「しょーがない人っすねーロートスは」


「はよ」


「おっけーっす」


 ウィッキーは咳払いを漏らす。


「えーっと。要するに『妙なる祈り』の影響を受けた者が八人必要で、その中に精神世界への扉を開ける能力者が一人以上はいないといけないって感じっすね」


「なるほど……神族会議も精神世界だったもんな」


 八人っていうのは、確か神族でもそれくらいの人数が必要だった気がする。なにかしらの理由があるのだろう。


「八人ですか……」


 アデライト先生の呟き。部屋につかの間の沈黙が訪れる。

 みんな同じことを思っているんだろう。条件を満たす人員が、八人もいないと。

 今のところ名乗りを上げてくれているのは四人か。まだ半分だ。


「それじゃああと四人、探し出さないといけないってこと?」


「そういうことっす」


「……ライバル増えちゃうじゃない」


 エレノアが恨めしそうに俺を睨むが、別に俺のせいじゃないぞ。


「ロートスさん、誰か心当たりはありますか?」


「心当たりですか……」


 あんまりない。

 これはあくまで希望だが、セレンだったらいいなとは思う。

 しかし、あいつも今はどこにいるかわからない。


 俺は部屋の真ん中で放心状態になって座り込んでいるマクマホンを見下ろす。こいつならまだ何か知っているかもしれない。


「治すか」


 俺はマクマホンにファーストエイドをかける。

 すると『ツクヨミ』によって崩壊した精神が完治し、その目に生気が戻った。


「う……あ……私は一体……」


 それに驚いたのはフェザール、そしてシーラだった。


「まさか、嘘だろう? キミのファーストエイドは、肉体だけでなく精神まで修復するのか……!」


「主様。それではまるで、エリクサーではありませんか」


 エリクサーか。たしかにそうだ。

 俺にとっては簡単な医療魔法。初歩の初歩だが、『妙なる祈り』の効果が乗ることで、エリクサーと同等の効力になるんだろう。

 覚えとけ。これがチートってやつだ。


 マクマホンは正気を取り戻したが、失った精神力や体力までは戻らなかったらしい。そのまま気を失ってしまった。


「致し方ありません。この方が目を覚ますまで待ちましょう。我々も休んだ方がいいかもしれませんし」


「そんな余裕、ありますかね」


 先生の提案に俺は首を捻る。


「機関とて今すぐサラちゃんをどうこうする気はないでしょう。あなた達はしばらく休む暇もなく動き続けてきたのです。次の為にも、英気を養う必要がある。親コルト派も王都から撤退したようですし、休息をとるなら今しかありません」


 確かに。先生の言う通りだ。

 休める時に休むのも大切なことか。

 エンディオーネには悪いが、こっちはしばらく休ませてもらおう。


「この学舎には空き部屋がいくつかあります。みなさん好きなところでお休みください」


 そういうわけで、とりあえずはみんなそれぞれ休むことと相成った。

 来るべき決戦に向けて、今は体と心を落ち着けよう。

 

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