第306話 ずっと真夜中はちょっと

 その日の夜。

 俺は仮眠から目を覚ますと、なんとなく研究室へと足を運んだ。


「ロートスか」


 部屋にはフェザールの姿があり、縛られたマクマホンを監視している。


「寝てなかったんだな」


「ああ。俺は皆ほど疲れていないからな」


 ありがたいことだ。


「マクマホンの様子は?」


「ずっと気を失っているよ。『ツクヨミ』のダメージからは回復しているから、目を覚ませば普通に意思疎通ができるだろう」


 そんな会話をしていると、マクマホンが目を覚ます。


「う……ここは……」


「よう」


 俺は床に転がったマクマホンの傍に腰を下ろす。


「ロートス様……」


 俺はマクマホンを拘束している魔法の縄を解除する。誰がかけたかは知らないけど、構わないだろう。


「拘束を解いてもよろしいので?」


「ああ。俺にとっちゃどっちでも一緒だしな」


 スキルだろうが魔法だろうが無効化できるし。

 マクマホンはゆっくりと座りこむ。


「さっきは悪かったよ。殴っちまって。なんか、イライラしてた」


「……ふがいないものですな。『尊き者』ともあろうお方が。まぁ、私とて取り乱していたのは認めますが」


 ふむ。

 俺のファーストエイドの効果か、マクマホンは精神的に落ち着いているようだった。


「そのさ。『尊き者』っての? なんなんだ、一体」


「エンディオーネ様からお聞きになっておらぬので?」


「ああ」


 神ってのは、なんでああ言葉足らずなんだろうな。

 人間だって心の全てを口にするわけじゃないけど、大切なことはちゃんと言葉で伝えてほしいもんだよ。

 マクマホンは長い溜息を吐く。


「エンディオーネ様がすべてをお伝えになっておられたら、このような面倒もなかったであろうに」


 それは本心からの嘆きのようだった。

 同感だ。


「すこし歩きませぬか。帝国と、エンディオーネ様のことも含め、お話いたします」


 俺はフェザールにアイコンタクトを送り、大丈夫だと告げる。

 一人になっても、守護隊のみんなが近くにいるだろうし。


 マクマホンに後を追って部屋から出る。

 計ったかのようなタイミングで、廊下にルーチェが現れた。


「おやおや、これはソルヴェルーチェ嬢。このような夜更けにいかがされたかな」


「あなたがロートスくんによからぬことを吹き込まないように、見張りに来ました」


「結構。しからば一緒に夜の散歩と洒落こみましょう」


 なんかあれだな。

 マクマホンの野郎。出会った時の調子が戻ってきているな。


 それはともかく、ルーチェは真剣な表情でぴったり俺の隣につく。

 そうして、真夜中の散歩が始まった。


 そういえば、カード村でもこんな感じだったな。

 つい最近なのに、かなり前の出来事のように感じる。

 いやはや。

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