第295話 輪廻のスパンが短すぎる

 俺は屋上に『妙なる祈り』を浸透させる。

 こうしちまえば、こいつらはスキルも魔法も使えねぇ。


「無駄なあがきをする。排除しろ」


 指揮官が命令すると、構成員たちは一斉に剣を抜いた。

 あ、やべ。物理攻撃に対しては対策がないぞ。

 こういう時に頼りになるアイリスも今はいない。

 どうするか。


「エレノア」


「うん。あいつらを倒せばいいのね?」


「待て。お前、飛行魔法使えるか」


「苦手だわ。ゆっくり落ちるくらいならできるけど、上昇はできないし。あなたを抱えて飛ぶなんて無理よ」


 じゃあサラを連れていくのも厳しいか。


「よし。ここは俺がなんとかする。お前はみんなに伝えてくれ」


「はぁ? 何言って」


「サラはコッホ城塞に捕まってるってな。そんで、助けに行ってくれ」


 俺はそう言って、エレノアを塔から突き落とす。


「ロートス!」


「頼んだぜ」


 エレノアは驚き眼で地上へ落ちていく。

 そして、俺は数百人の機関構成員に向き直った。


「自暴自棄になったか? アルバレスの御子」


「いいや。別にそういうんじゃねーさ。自暴自棄に見えるってんなら、お前の目が節穴だってことの証明になるぜ」


「無駄口が好きなようだな。まぁいい。処せ」


 号令の直後、俺は無数の剣に貫かれた。

 そして生き返る。


「いやな。ちょっと考えてたことがあったんだわ」


 目の前の構成員をぶん殴り、俺はさらに斬り刻まれて死亡する。


「エンディオーネの加護ってのをさ」


 生き返る。


「蘇生の効果が発動するには、特定の条件を満たさないといけないんだけど、それが今はっきりしたぜ」


 首を斬られ殺される。

 生き返る。


「俺はいつも、運命に立ち向かってた」


 エルフの森で戦った時も。

 マシなんとかとやり合った時も。

 戦争に巻き込まれた時も。

 自分と、仲間の、覆せない死の運命に抗う時、エンディオーネの加護が発動するんだ。


「その度にスキルを失うってのはイマイチぴんとこなかったけど」


 胴体をぶった切られて死亡。

 生き返る。


「なんとなく感じてたことがあるんだよ」


 スキルがエストの加護であり呪いだっていうんなら、スキルを失うことはその呪縛から解き放たれてるってことだ。


 死んだ。

 復活。


 殺される。

 蘇生。


 即死。

 元通り。


「俺ってさ、死ねば死ぬほど強くなるんだよな」


 厳密には、俺の中に宿るアルバレス因子。そして『妙なる祈り』の力が、解放されていくんだ。


「だからさ。やめといたほうがいいぜ。俺を殺すの」


 どれくらい死んだだろうか。

 この数十秒で百回は死んだ。

 いくら殺しても即座に生き返る俺に、構成員たちは恐れ慄いているようだった。


「化け物……!」


「なんだこいつは!」


「聞いてた話と違うぞ!」


 口々に言い、離れていく構成員たち。


「ええい! 何をやっている! 御子のスキルは無限ではない。いずれ弾切れになる! もっともっと殺せ!」


 指揮官が叫ぶが、もう手を出す奴はいない。


「賢い判断だ」


 俺はにっこりと笑ってみた。

 サイコパス感を演出したいと思ったのだ。


「もう遅いけどな」


 先程までとは比べ物にならないくらいまで解放された俺の力。

 見せつける時が来たようだ。


 やっと、チートで無双する時が来たってことだな。

 完全に、そういうことだ。

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