第294話 そうはさせるか
なんてこった。
俺とエレノアは塔の頂上に立っていた。
学園のどんな建物よりも高い位置からは、王都が一望できるほどだ。
「なんでこんなところに……」
エレノアも困惑している。
ここからどうするべきか。
エストを消滅させるっていう目的はあるけど、一体どうやってそれを果たすのか。
儀式を行える神族はほぼ全滅してしまったし、どうしようもないんじゃないか。
エンディオーネの言った通り、ルーチェに聞いてみるしかないな。
「そういえば、戦いはどうなったかしら」
そうだ。ミーナとの戦いはまだ続いているのだろうか。
「塔を下りよう」
「そうね。でもどうやって……さっきみたいなエレベーターもないし、階段だって見当たらないわ」
塔の最上階は手すりすらないただの屋上みたいになっている。飛び降りるわけにもいかないし、どうしたもんか。
考えていると、俺の尻ポケットが振動する。
念話灯の着信だ。
「もしもし」
『ロートスくん! たいへん!』
「ルーチェ? 一体どうした?」
『サラちゃんが動き出して、塔の方に向かってるの!』
「まじか……! クリスタルは消えたのか?」
『ううん。クリスタルのままだよ。私もいま先生のお母さんとそっちに向かってる!』
どうなっているんだ。
サラが動き出しただと。
女神ファルトゥールの仕業か?
「ロートス、あれ!」
エレノアが指した方向を見ると、巨大なクリスタルが浮遊してこっちに向かってきていた。
「サラ!」
クリスタルは見る見るうちに近づいてきて、まもなく塔の頂上に到達する。
そして、最上階の中央で静止した。
「なにが起こってるの……?」
「さぁな。悪いことじゃなけりゃいいんだが」
生まれたままの姿のサラは、クリスタルの中で眠っている。意識はあるのだろうか。これはこいつの意思なのか?
「ロートス! あれ! 今度はなに!」
次にエレノアが指さしたのは真上。
直後に影が差す。雲を突き抜け、頭上に現れたのは降下してくるコッホ城塞。ヘッケラー機関の本拠地であった。
なんなんだよ。次から次へと。
頭が追い付かねぇ。
巨大な浮遊城は塔の上空で止まる。
そこから何百人もの人間が飛び立ち、俺たちのところに降下してくる。
「こっちに来るわ」
「エレノア。俺の傍から離れるな」
瞬く間に飛来した機関の構成員たちは、次々と屋上に着陸する。
そして、クリスタルへと群がった。
「おい! 何してやがる!」
俺の叫びなどまるで無視。
奴らは協力してクリスタルを持ち上げようとしていた。
「もたもたするな。急ぎ回収しろ」
指揮官らしき男が指示を鋭く飛ばす。
野郎。サラをコッホ城塞に連れていくつもりだな。
そうはさせるか。
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