第296話 馬鹿だった
俺はゆっくりと一歩を踏み出す。
まず、ずたずたになった服を直した。安物の服が、上質かつ丈夫な生地の衣装に変化する。かっこいい上下に、かっこいいマント。まるで勇者の装いだ。
これはもう直すとかそういう次元じゃなく、一から創造していると言っても過言ではない。厳密には直してるんだけどな。どっちでもいいか。
解放された『妙なる祈り』にかかれば、これくらいは朝飯前だ。
次に、構成員が落としたロングソードを拾い上げる。
その剣に祈りを吹き込むと、すごいかっこいいデザインの剣に姿形を変化させた。耐久性も切れ味も神的に上昇した。
軽く一振りする。それだけで、風が鳴き、空間が凝った。
「なんだ、その剣は」
指揮官はどう見てもビビっている。周りの構成員も同じく。
「やっぱりあれだろ。異世界と言えば、剣で無双するって相場が決まってるだろ」
「何をわけのわからんことを……! できそこないの御子が! こけおどしも大概にしろ! 貴様のような失敗作など、取るに足りん!」
だったら早くかかってこいよ。恐怖に負けそうになる自分を鼓舞しているようにしか聞こえないぜ。
「相手はたった一人だ! 全員でかかるぞ! 今こそ訓練の成果を発揮する時だ! 心を一つにし、チームワークで勝つぞ!」
指揮官の一喝に、構成員たちが声を上げる。それまでビビっていた奴らも、顔つきを変えて再び剣を構えた。
ちょっと待て。なんか俺が悪者みたいだろ。
「マシーネン・ピストーレ五世の悲願を成就するため、身を捧げるのだ! かかれぃ!」
数百人の精鋭たちが、雄たけびと共に突撃してきた。
「やるしかないか」
俺は意を決し、剣を構える。
今気づいたんだけど、剣なんか使ったことない。
転生前は漫画とかアニメとかゲームとかでよく見ていたし、この世界でもイキールの剣技を観察したことはあるが、具体的にどうやって振るっているのかはわからない。
なんとなく剣を握ってみたけど、ちょっと思慮が足りていなかったかもしれない。
まぁいいや。
「なるようになっちまうだろ! こういうのはさ!」
俺はまず、一番前にいる敵に剣を振り下ろした。袈裟懸けってなんとなくこんな感じっていうイメージでやってみた。
素人丸出しの斬撃は簡単に避けられ、俺はあえなく反撃を喰らう。
「痛っ!」
胴体を斬られ、深い傷を負う。
さっきまでなら即死だった攻撃も、丈夫な服を着てしまったがために負傷で済んでしまった。
剣を握ったこともそうだけど、やったことが裏目に出てるじぇねぇか。
馬鹿か俺は。
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