第232話 まさに飛び込み営業

 翌朝。


 日の出と共に宿を出た俺達は、その足で王国軍基地へと向かった。

 街の中心に佇む巨大な屋敷を見上げる。リッバンループの総督府である。簡単に言えば市役所のような場所だ。それを守るように、物々しい装備に身を包んだ多くの衛兵が並び立っていた。

 周囲には遠巻きに建物を眺める住民の姿が多くある。みんな不安そうな、あるいは興味深げな面持ちで、それぞれが好き勝手な言葉を口にしている。

 今、この場所は前線基地となり、王国中から名のある将軍や冒険者が集結しているらしい。俺の緊張もやむなしといえよう。


「行くぞ、アイリス」


「はい」


 アイリスは相変わらずの微笑み。こいつに緊張とかいう概念はないんだろうな。スライムだし。

 俺達は総督府の門に到達する。


「おい待て!」


 当然、門に近づいた俺とアイリスは衛兵に止められることとなった。


「誰だお前達は。この総督府に何の用だ!」


 随分と威圧的な態度だ。それくらいじゃ俺は怯まない。これでもそれなりの修羅場はくぐってきたんだ。

 深呼吸してから、口を開く。


「ここの軍を統括している責任者に会いたい。アインアッカ村のロートスが来たと、取り次いでほしいんだ」


 俺はなるべく丁寧な物腰を心掛けた。

 だが、衛兵の目はますます鋭くなるばかり。みすぼらしい装いの俺を見下すような視線であった。


「どこの誰だと? ハッ、知らんな。招かれたのか?」


「いいや。アポも取ってない」


「だったら消えろ。ここはガキの遊び場じゃない。国の命運を背負った勇者の集いなんだ」


 衛兵は手を振って立ち去るよう促してくる。

 ううむ。正直この反応は予想できていた。ムカつく対応ではあるが、得体のしれない少年少女を招き入れるのは衛兵としての怠慢でもある。


 一応、俺には考えがあった。というのも、俺は軍にコネがあるのだ。

 そう。エルゲンバッハ大尉だ。あの人の肩書は長すぎてもう忘れたけど、名前だけは記憶しておいた。冒険者ギルドとの一悶着が、こういう時に活きるなんて、あの時は思いもしなかった。

 まぁ、コネも実力のうちだ。ありがたく使わせてもらおう。


「ロートス……?」


 策を実行しようと口を開きかけた瞬間、俺の背中に聞きなれた声が投げかけられた。


 まじかよ。

 全身がパラフィンで固められたように硬直してしまい、すぐには振り返られない。


「ねぇ……あなた……」


 間違いなく、エレノアの声だ。


 見つかっちまったか。

 いや、往生際の悪いことはよそう。ここに来る時点で、エレノアと会うことは確定していた。覚悟も決めていたんだから。

 意を決して振り返ると、そこには唇をきゅっと引き結んだエレノアと、その隣で腕を組むマホさんが、俺をじっと見つめていた。

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