第203話 明確な敵
テントから男達が出ていった後、俺とルーチェはこっそりとテントを出る。すぐにでもサラをなんとかしてやりたいが、それは難しいようだった。
「詳しいことは私のテントで話すね」
そう言われて案内されたのは、カード村の外れにひっそりと張られた小さなテントであた。
中には最低限の調度品しかない。
俺とルーチェはベッドに肩を並べて腰かける。
「最初から説明してくれるか」
「うん。まずは、サラちゃんが拉致されたところからだね」
ルーチェは手袋に包まれた手を弄る。
「ロートスくんがエルフの里に出発した後、すぐにたくさんの獣人がやってきたの。月の出ていない深夜だった。サラちゃんは無理矢理さらわれて、私はサラちゃんのメイドだと勘違いされて一緒に連れてこられたんだ」
「拉致されたにしては、獣人たちはルーチェに一目置いているような感じがしたけどな」
「あれね。ここではドルイドのメイドっていう箔があるし……」
「あるし?」
「ここに連れてこられた時に因縁をつけてきた人をコテンパンにしたら、こんな風になっちゃった」
てへ、と舌を出すルーチェ。
いわゆるこれはてへぺろだな。
どうやらルーチェの戦闘能力は非常に高い水準にあるらしい。
それはともかく。
「サラを救い出すことはできないのか」
「今すぐには難しいと思う。サラちゃんがここに連れてこられたのは、大魔法のためと、それによってもたらされた被害をすべて亜人に押し付けるため」
「仕組んだのは帝国か?」
「帝国と、ヘッケラー機関っていう秘密結社みたい」
ふむ。
つまり亜人同盟は、完全に捨て駒ってことか。帝国と機関に踊らされる道化だな。
どうしたものか。
「このままだと戦争が起きるっていうのは、マジなのか?」
ルーチェは神妙に頷く。
「まず間違いなく起きると思う。虐げられてきた亜人の不満は、もう爆発寸前だから」
「俺はサラを救うついでに、戦争を止めたいとも思ってる。人が大勢死ぬのは、気分の良い物じゃないからな。そのためには、どうすればいい?」
情けない話だが、知恵も知識もない俺には具合的な策は思いつかない。誰かを頼るしかないのだ。
「亜人同盟をなんとかしても、意味はないんじゃないかな。もちろん彼らの不満を解消してあげることは重要だけど、それには時間がかかる。今それよりも、彼らの裏にいるヴリキャス帝国をなんとかしないといけないと思うよ」
「なるほどな」
つまり俺が戦うべき相手はヴリキャス帝国。もっと言えば神父と話していたあの男ってことだろうな。あいつが亜人同盟の支援し、機関とも窓口になっているぽかった。
ひとまず、あの男について調べる必要がありそうだ。
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