第202話 密約ってなんかかっこいい
「これ、一体どういうことだよ」
クリスタルに囚われた少女というあまりにも陳腐な光景を前にして、俺の口からは常套句しか出てこない。
ゲームやアニメでよく見た展開とはいえ、いざ目の前にするとやっぱり驚くよな。
いやはや。
「これが今のサラちゃんの境遇。待遇って言った方がいいかな?」
眉尻を下げたルーチェが沈痛な声を漏らす。
「単語なんてどっちでもいい。どうしたってこんなことになってる」
クリスタルの中のサラは目を閉じたまま微動だにしない。意識があるのかないのか。見た感じなさそうだが。
「ロートスくん。実はね……」
ルーチェが何か言いかけた時、テントの外で男達の会話が聞こえてくる。
咄嗟に唇の前に人差し指を立てるルーチェ。
「こっち」
急に手を引かれ、クリスタルの台座の裏へと誘導される。
「伏せて。ここなら見つからないよ」
「隠れないといけないのか?」
「念の為。ね?」
にこりと微笑むルーチェ。俺を安心させようとしてくれているのだろう。
まもなく、テントに人が入ってくる。
「ほう。これが例の娘ですかな?」
「そう。マルデヒット族のドルイド。その最後の血統だ」
しわがれた老人の声と、偉そうな男の声。
前者には聞き覚えがあった。まず間違いない。アインアッカ村の神父の声だ。俺が『無職』であると宣告したクソみたいな声だから。忘れようもない。
しかし、なんで神父がここにいるのか。
つーか、サラの裸を見られている状況が許せねぇ。こいつの体を見ていいのは主人である俺だけだってのに。
「ドルイドの血統は魔力の深奥に通じる。この娘がいれば、大魔法の発動も可能だ」
「大魔法……太古に失われた究極の攻撃魔法でしたな。一撃で都市一つを吹き飛ばす威力だと聞きます。そんなものが本当に存在すると?」
「あるさ。我がヴリキャス帝国に伝わる預言書に記述されている。大魔法は実在する」
帝国だと? つまり、この男は帝国の人間か。
アインアッカ村の神父と帝国の人間が通じているのか。亜人同盟とどういう繋がりがあるんだ。
俺は伏せたままルーチェを見る。
目が合った。
彼女は人差し指を立てるのみ。
「大魔法が発動できれば、王国を滅ぼすことなど容易い」
「そうであることを願いますぞ。しかし、お忘れになるな。王国滅亡の暁には――」
「わかっている。この土地は、そなたらヘッケラー機関の好きにせよ」
「約束を違えなさるな。機関は決して裏切りを許さぬ」
「はは。脅かすなよ」
なるほどな。そういうことかよ。
ヴリキャス帝国とヘッケラー機関の間には、既に密約が交わされていたのか。
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