第184話 友情のあり方
スライムとなったアイリスをビンに詰め、俺はギルド長に背を向ける。
「もしまたアデライト先生をつけ狙うようなことがあったら、次は確実に殺す」
不思議と、自分の声に真実の響きがあるように思えた。
ギルド長は何も言わなかった。沈黙は肯定だ。
かき集めた百人以上のA級冒険者達をコテンパンにされ、最終兵器でもあったS級冒険者オー・ルージュも役に立たなかったのだ。
もう俺達と敵対する気は微塵も起きないだろう。
ギルドの出入口で佇むヒーモは、これでもかと言わんばかりにドヤ顔だった。
俺は観念したように諸手を上げる。
「……助かったよ。ヒーモ、お前のおかげだ」
「いや、気にすることはない。吾輩はあの時の借りを返しただけだよ」
「あの時?」
「クラス分け試験の時さ。あの石像を倒し、吾輩を守ってくれただろう?」
俺は大階段にいるアカネを一瞥する。
ううむ。そっか。あれは俺の手柄になっているんだっけか。
「それにだ。情けなくも気を失った吾輩の名誉を守ってくれた。吾輩としては、石像を倒してくれたことよりそっちの方がありがたかったんだよ」
「命より面目を優先するのかよ」
「貴族とはそういうものさ」
難儀な生き物だな。貴族ってやつは。
正直、ヒーモが助けに来てくれるとは露ほども思っていなかった。俺はヒーモをそれなりに邪険にしていたように思うし、確かに試験やら決闘やらで力を貸したかもしれないが、平民の身分でここまで貴族に目をかけられるほどでもないはずだ。
「若様はご学友がいらっしゃらないのじゃ。ロートス、おぬしが若様の友人第一号ということなのじゃよ」
うわびっくりした。いつの間にかアカネが隣に来ていた。
「おいクソガキ! 余計なことを言うんじゃないよ!」
ヒーモはアカネの長い髪を掴んで力一杯引っ張るが、アカネは微動だにしない。ヒーモよわい。
ひとしきり引っ張って、ヒーモは荒げた息を整える。
友人ねぇ。
「こう言っちゃなんだが、俺はお前のことを友人だとは思ってなかったよ」
我ながらひどいことを言う。だが本心だ。いけ好かない貴族野郎だと思っていた。
ヒーモはショックを受けるかと思ったが、どうやらそうでもないようだ。
「かまわんよ。そもそも友情というのは一方通行でも成立するものだ。思いやりや親切心なんかと一緒でね。それを相手がどう受け取るかは、その者次第。吾輩の友情に応えるかどうかは、ロートス、キミ次第ということなのさ」
「……たまげたな」
ヒーモは同級生だ。つまり十三歳の少年ということになる。
普通なら、自分だけ友人だと思っていた、なんてことになったら小さくないダメージを負うはずが、こいつはそういう風な様子を少しも感じさせない。
こいつにはこいつなりの人生の哲学があるのだろう。このあたりは、さすが貴族といったところなのだろうか。
「そうだな。お前の友情には参った。俺もその友情に応えるしかないみたいだ」
「おお! それでは吾輩達は親友ということだな!」
「まだそこまでじゃない」
しかしながら、これから友情を深めていくことに吝かではない。
ヒーモは嬉しそうに大笑いする。
「ああそうだロートス。キミはまた大変なことに巻き込まれているようじゃないか。このヒーモ・ダーメンズも混ぜてくれないか。きっと力になれるだろう」
「いいのか?」
「水臭いぞ。吾輩達は親友じゃあないか!」
ええ。
まぁそれでもいいけどさ、もう。
そういうわけで、俺はヒーモを連れてアデライト先生達のもとに向かうことにした。ヒーモへの説明は、道中でやったらいいだろう。
一応、ダーメンズ家はそれなりの貴族だ。味方になってくれるというのなら、ほんのちょっとだけ心強い。
ほんのちょっとだけな。
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