第183話 ギルド、陥落
ギルド長を見れば、大階段の上で腰を抜かしていた。皴だらけの顔には脂汗が浮かび、焦りと恐怖に震えているようだ。
「頼みの綱のS級も役に立たなかったな」
俺は早足で階段を上り、ギルド長の胸倉をつかみ上げた。
「ぐあぁっ」
「情けねぇ声出すんじゃねーよジジィのくせに」
「このガキが……ワシに楯突くとは……!」
「おう。そっちの方がやりやすいぜ」
俺はギルド長の顔面を、思いっきりぶん殴る。
ルージュには効かなかったパンチも、か弱い老人には効果覿面だ。
ギルド長は苦悶の声を漏らして床に転がった。
「サラとルーチェはどこだ」
「だから知らんと言ってるじゃろうが!」
「俺も鬼じゃねぇ。殴るのは一発だけにしといてやるつもりだ。俺の気が変わる前に質問に答えろ」
「ほ、本当に知らないんだ! たのむ! やめてくれ!」
「ふーん。まぁ言いたくないならいいけどさ」
俺は足元に落ちていた鉄の棒を拾い上げると、ギルド長の頭部を狙って大きく振りかぶった。
「待て! 待て! あのハーフエルフからはもう手を引く! 干渉しない! だから――」
「なに当たり前のこと言ってんだ」
俺は渾身の力をこめ、ギルド長の脳天に棒を振り下ろそうとする。
「ひぃっ!」
だが。身体が動かない。俺の腕に絡みついたアイリスが、俺の動きを阻んでいる。
アイリスはぷるぷると震えている。喋らずともわかる。そこまでやる必要はないと、俺を諫めてくれているんだろう。
「……わかってるよ」
確かに、これを振り下ろせば殺しかねない。現代日本的な感覚を捨てられない俺からすれば、流石にそれはやばいだろう。冒険者達をアイリスに殺させておいて、こんなことを言うのも卑怯かもしれないが。
棒を放り捨て、大きく息を吐く。
「なんとかなったようじゃの」
いつの間にかアカネが隣に立っている。のじゃロリモードに戻ったアカネは、俺の背中をたんと叩き、幼い顔に似合わない妖艶な笑みを浮かべる。
「どうじゃ? わらわの機転。なかなか役に立ったじゃろう」
「ああ。この上なくな」
「ぬはは。そうじゃろそうじゃろ」
ひとしきり笑ったアカネは、スライムとなったアイリスを見て、次いでそこら中に倒れた冒険者達を見渡した。
「しかし、甘いのぅおぬしらは。だーれも死んでおらん。殺さずの誓いでも立てておるのか?」
なんだって?
死人が出ていないってのか。
俺はたしかに殺せといった。その時の勢いもあったが、あれは紛れもなくあの時の本心だった。
アイリスが俺の肩の上でぷるぷると震える。
そうか。
俺の潜在的な良心さえ汲み取って、殺さずにおいてくれたのか。
まじでできる子だな。
まさに、理想的な従者だ。
「貴様ら……ギルドをどうするつもりだ」
ギルド長が慄いた声でそんなことを言う。
「ギルドなんてどうでもいいんだよ。サラとルーチェの居場所を教えろっつってんだろ」
「だからそれは……なんのことかわからん!」
この期に及んでしらばっくれるつもりかよ。
「待つのじゃロートス。こやつ、本当に知らんようじゃ」
「わかるのか」
「わかる。永く生きておると人の心の機微を読めるようになってくる。どうやら、サラとルーチェが消えたのは、ギルドの仕業ではないようじゃの」
なんてこった。
だったら尚更、早く手を打たねぇと。
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