第171話 生き残った者達
気が付いた俺の目に映ったのは、ぼやけた馬車の天井であった。
後頭部に柔らかい感触。黒いローブの人影。どうやら俺は、ウィッキーの膝枕で寝ていたようだ。
「よかった、ロートス。目が覚めたっすね」
上から覗きこんだウィッキーが安堵の表情を浮かべる。
俺はウィッキーの大きなおっぱいを指でつつき、自身の無事を悟った。
「あ……ちょっとロートス。こんなとこで――」
「助かったのか? 俺は」
未だ曖昧な視界の中で、俺はうわ言のように呟く。
「みんなは?」
俺の事より、ウィッキーやセレンが無事に脱出できたのかが重要だ。
「へいき」
声の方を見ると、馬車の座席でセレンが相変わらずの無表情を浮かべていた。
「シーラは?」
「御者」
「そっか」
窓の外を見やれば、シーラが手綱を握っている。それだけでなく、何人もの騎馬隊が馬車を守るように追随していた。アルバレスの守護隊の奴らだ。
「まったく。なんであんなところにおったんじゃ。まともな方法でピストーレの坊やに挑むなど笑止千万じゃぞ」
アカネはのじゃロリモードに戻っていた。セレンの隣でくつろいでいるようだ。細い脚をかっぴろげて、パンツ丸見えである。
どうやら全員脱出できたようだな。危ないところだったが、なんとかなったか。
「……なんだったんだあの野郎は。機械の体で、壊しても復活するとかチートだろ」
なんで俺じゃなくてあいつにチートがあるんだよ。おかしい。
「奴はもともとあんなんじゃよ。運命を操るスキル『ホイール・オブ・フォーチュン』は、自らの死の運命をなかったことにする。それと同じく、相手に死の運命を押し付けることもできる。ゆえに、適当な攻撃魔法でも必中の上、一撃必殺の威力を持つのじゃ」
「なんすかそれ……どうやって対抗するんすか」
「まさに超絶神スキル」
ウィッキーとセレンもほとんど呆れかえっている。
最高神エストとやら、世界のバランスをちゃんととれよって感じだ。
「でも、俺達全員無事だよな? あいつのスキル発動してなかったんじゃないのか?」
俺はバカスカ死んでたけど。まぁ結果として死に切ってないし。
ゆっくりと、アカネが姿勢を正し、ぱちんと手を叩いた。
「どこから説明しようかの。あの坊やに関わった以上、おぬしらも世界の真実を知る必要があるじゃろう」
「世界の、真実?」
セレンの瞳に興味の光が生まれる。こりゃ珍しい。
アカネがしたり顔で頷く。
「機関が暴いた世界の真実。これを知っているのは機関でもごく少数の幹部のみじゃ」
「なんでアカネがそれを知ってるんだよ」
「当然じゃろ。ヘッケラー機関はわらわが立ち上げたのじゃからな」
なんだと?
驚きの事実だぞそれは。もしかすると、機関にはダーメンズ家が絡んでいるのか?
「まぁ今それは重要ではない。そうじゃな……」
アカネは強い鼻息を吐き、腕を組む。
「まずは、スキルの真実から話すとするかの」
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