第172話 ごめん、ちょっと語らせて

 スキルの真実だと? それなら知ってるぞ。


「あれだろ? スキルは、その人の運命によって決まるってやつだろ」


「ほう? それを知っておるなら話は早い。前提を説明する手間がはぶけるわい」


「どういうことっすか?」


「これから話すのはその先じゃ」


 俺とウィッキーは上下で同時に顔を見合わせた。


「考えてもみよ。そもそも運命とはなんじゃ? 人の未来を決定づけるシナリオじみたものが、どうやって決められると思う?」


 改めて聞かれると、答えに困るな。


「人の運命は、最高神エストと女神ファルトゥールによって定められる」


 答えたのはセレンだ。


「そうじゃの。そういうことになっておる。あくまで人の世では、じゃが」


 そうだったのか。全然知らなかった。

 だがアカネの口振りからすると、それが真実ではないらしい。


「神に人の運命を決めることなどできん」


「それは不敬」


「勝手に崇めて、己の運命を決めていることにする方がよほど不敬じゃわい」


「神は世界の主。生きとし生けるものは神を仰いで然るべき」


 ふむ。


 セレンの言い分も、アカネも言い分も、俺にはどっちも理解できん。いや、どっちも理解できるのかもしれない。


 俺は神の存在を信じてはいる。だって実際に会ったことがあるからな。俺を間違えて殺した死神の幼女は今頃なにをしているだろうか。


 だが、だからこそ神が絶対でないことも理解できる。だって善良な一般市民である俺を間違えて殺したんだからな。あいつ絶対許さん。


 俺は後頭部でウィッキーの太ももの感触を楽しみつつ、話を進める。


「ともかく、アカネの主張では、運命は神によって決められているわけじゃないってことだよな。じゃあ、運命ってのはどうやって決まる?」


 アカネは組んでいた腕を解き。両手の指を絡ませる。


「人の運命、宿命、業。そういったものは、自分自身の過去の行いによって決まるのじゃ」


「過去の行いっすか?」


「うむ。現在の境遇、能力、精神、思想、感情。そういったものはすべて過去の自分に因がある。そして、未来がどうなるかは、今ここから自分がどう行動するかによって決まる。それが運命の正体じゃ」


「それはおかしい」


 反論はセレンから発せられる。


「もしそうだとしたら、生まれる家や才能がどうやって決まるのか不明。人間が持つ多くのものが生まれつき決まっていることの説明がつかない」


「ところがそうでもないのじゃ。人の生命は巡るもの。すべて前世からの続きなのじゃよ」


 それってつまり。


「生まれ変わる……輪廻転生ってことか?」


「その通り。まぁ、今の神学では生まれ変わりは否定されておる。目に見えるものではないからの。残念ながら証明のしようもないのじゃ」


 セレンが頷く。


「人は皆、大地より生まれ、神のもとに還る」


 うーん。よくわからんな。

 俺は転生者だから、生まれ変わりは信じているけどね。


「けどさ。それって、いわゆる運命っていうやつとは違うんじゃないか? 運命ってのは、自分の力じゃどうしようもないから運命っていうんだろ」


 俺の言葉に、アカネは愉快そうに笑う。


「そこじゃよ。流石はロートス。よく心得ておる」


 褒められるようなことでもないと思うが。


「神の役割は、人の行いから生まれた運命をもとに、それを補強するようなスキルを付与することなのじゃ」

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