第165話 BOSS戦

「聞く感じ、大層な力を持ってるようだな。あんたは」


(その通り)


「だったら一つ頼みがある」


(冒険者ギルドの件なら引き受けないよ)


 先回りされた答えに、俺は面食らった。


(驚くようなことかい? 僕は神にも等しき存在だ。知らないことなんかないんだよ)


「……どうして引き受けてくれない?」


(簡単な話だ。我々は裏切者を決して許しはしない。つまり)


 唐突に、歯車が閃光を放つ。

 やばい。この流れはたぶん。


 俺は直感的にウィッキーを突き飛ばした。

 四半秒前にウィッキーがいた空間を、赤いレーザーが通り過ぎていく。


「ロートスっ!」


 地面に転がったウィッキーが俺を呼ぶが、それに答える余裕はない。

 レーザーが、俺の右腕を奪い去っていたからだ。ご丁寧に肘から先を斬り飛ばしてくれたらしく、前腕が宙を舞って床に落ちていく様は、まるで現実とは思えなかった。


「なにしやがるテメェ!」


 いきなりすぎるだろ。痛いというよりは熱い。


(へぇ? 今のを外すか……流石はアルバレスの御子といったところか。僕の定めた運命に抗うなんて)


 何を言っているかちっともわからないが、この状況がやばいことだけはひしひしと伝わってくる。

 負傷した俺にシーラが駆け寄り、肩を支えてくれる。


「まさか、マシーネン・ピストーレ五世が主様に危害を……? いえ、今のは不可抗力」


 独り言をつぶやくシーラ。どうやらこれは彼女にとっても想定外の事態らしい。


(君は知っているはずだ。裏切者は殺す。それが機関の鉄の掟だと。たとえ君の介入があったとしても、それは覆らない)


 無慈悲な宣告。


「ギルドを利用して先生を始末するつもりってわけか……くそ野郎が」


(さぁ、どうだろう。それが彼女の運命なら、そうなるだろうね)


 運命。

 なんとなく察するぜ。こいつのスキルは、運命に関する力。たぶん、運命を操作するとかそんなんだろう。ベタだな。


(けれど、その獣人の娘は、ここで死んでもらおうと思う)


 言うや否や、先程と同じ光がいくつも閃いた。


「ウィッキー!」


 俺は叫ぶ。

 だが、できることは何もない。


 いくつものレーザーがウィッキーに迫り、それら全てが見えない壁によって弾かれていた。

 ウィッキーが両手を前に突き出し、魔法障壁を展開していたのだ。


「一回見たっすよ。その光線は」


 流石はウィッキーだ。優秀すぎる。


(ふむ。一度改変された運命は、未来にも影響を与えるか。なるほど、有意義な実験結果が得られたよ)


 なにブツブツ言ってやがるんだこいつは。

 俺は自分の右腕に治癒魔法をかける。傷口は塞がり、出血もなくなる。覚えててよかった治癒魔法。


「おいシーラ」


「はい」


「なんとかしろ」


「できません」


「なんでだよ! 守護者じゃねーのか!」


(ふふ。無駄だよ。その子だって機関の一員なんだからね)


 こいつの声は聞こえていないはずだが、シーラは補足するように声を発する。


「マシーネン・ピストーレ五世の意思に背くことは、機関を裏切ることになります。それに」


 シーラは戦闘態勢のウィッキーを一瞥する。


「標的は彼女一人です」


 だからなんだ。見捨てて生き延びろとでもいう気か。


「あたしは主様の御身を最優先に考えます。既に腕を失われ、これ以上、不用意な傷を負われるのは」


 ふざけんな。


「いいか。肝に命じとけ。ウィッキーが死ぬ時ってのは、つまりは俺が死ぬ時だ」


 仲間を犠牲に生きる気はさらさらない。

 俺はシーラをそっと突き放す。

 そして、機械仕掛けの神と堂々と対峙した。


「あいつに味方するってんなら、お前も敵だぜ。シーラ」


「主様……」


 今までゆっくりと動いただけだった巨大な歯車が、音を立ててスピードを増していく。


(おもしろい。僕に楯突くというのなら、一度叩き潰してあげよう。かかってくるといい)


 もしこいつに顔があったなら、ものすごいドヤ顔をしているんだろうな。


「ウィッキー! セレン! やるぞ! このいけすけねぇガラクタをぶっ壊す!」


「おっけーっす! やってやるっすよ!」


「楽勝」


 その意気だ二人とも。


 言うなればこれは、ボス戦ってやつだな。

 負けイベントじゃないことを祈るぜ。

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