第166話 戦う者たち

 こんな強そうな奴を相手に出し惜しみは無用だ。


 今まであんまり使ってこなかった俺のクソスキル。今はとにかく戦闘で使えそうなやつを虱潰しに活用していくしかない。

 とても役に立つとは思えないが、使わないよりはマシなはずだ。


「いくぞ……! 『エイト・フォー』!」


 このスキルは、汗の匂いやべたつきを抑えてくれるスキルだ。戦闘で激しい動きをして汗をたくさんかいた時、味方に不快な思いをさせずに済む。


 さらに俺は『膝小僧の守護神』を発動。俺の両膝が不可視の膜で覆われ、地面に膝をついた時などの衝撃を緩和してくれる。

 加えて『緋色の弾丸』のチャージを開始。俺の左拳に赤褐色の光が蓄積されていく。


(三つのスキルを同時に使いこなすか……なるほど、やっぱりアルバレスの御子。尋常じゃない才能だね)


 嫌味かよ。


(ワクワクしてきたよ)


 歯車から無数の光線が迸る。

 俺はとにかく動こうと全力でサイドステップを踏んだ。紙一重で光線をかわし、床を転がって跳び起きる。早速『膝小僧の守護神』が役に立ってくれた。


 ウィッキーに向けられた光線はすべて魔法障壁が弾き返し、セレンは氷結系の攻撃魔法で光線を相殺していた。

 いいぞ。戦えないことはなさそうだ。


「これでもくらえっす!」


 ウィッキーの両手に光が生まれる。


「ムーンライト・シャープナー!」


 放ったのは青白い光の刃。三日月型のそれはウィッキーの身長ほどもあり、一見巨大なブーメランのようだ。くるくると回転しながら歯車の内の一つに直撃し、突き刺さってなお回転を続け、がりがりと火花を散らす。


(やるね。習得難度の高い上級魔法を、こうも簡単に放つとは。でも)


 ウィッキーのムーンライト・シャープナーは歯車にほんの小さな傷痕をつけただけで、歯車が放った光にかき消されてしまう。


(未熟だ)


「誰も一発で終わるとは思ってないっすよ!」


 間髪入れずウィッキーが放ったのは、黄金の輝きである。


「サンライズ・ヴァーミリオン!」


 ボーリング玉のような光弾が凄まじい速度で発射され、歯車の中心に直撃、激しい光の爆発を生じさせる。


「おお!」


 思わず声を出したのは俺だ。これは手ごたえアリなんじゃないか。


「たたみかける」


 セレンが囁く。

 どうやら『ロックオン』を完了したようだった。


「フリジット・メガキャノン」


 でた。セレンが特訓で身に着けた新魔法だ。

 一撃の威力だけなら全攻撃魔法中でも上位に位置するやつだ。


 セレンが放ったのは人が十人は入れるんじゃないかというほどの巨大な氷塊。白い吹雪にのようなオーラに包まれたフリジット・メガキャノンが、ダメ押しとばかりに歯車にぶちあたった。


 臨天の間に轟音が響き渡る。絶対零度の魔力の塊が、いくつもの歯車を凍結させていく。


 すげぇ。


 これほどの魔法を食らったんだ。

 いくら神に等しいといっても、無事で済むはずがない。

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