第112話 どんな関係?

 その日の放課後。

 俺は真っ先に冒険者クラブの部室に向かった。


 もちろん、アデライト先生に会うためだ。

 先生は今日も入部希望者の面接を行っていたが、無理を言って時間を取ってもらった。


「ロートスさん、いかがされたのです?」


「どうもこうもないですよ先生。一体ありゃどういうことです」


「と、仰いますと?」


「とぼけないでくださいって。ギルドの事ですよ。『ドラゴンスレイヤー』だのA級だの。あれって先生の差し金でしょう?」


「あら? お気に召しませんでしたか? きちんとウィッキーの存在を隠せたと思うのですが……」


「俺が目立っちゃ意味ないでしょうが!」


 思わず怒鳴ってしまった。アデライト先生はしゅんとなって俯いてしまう。


「ごめんなさいロートスさん。私の力では、ウィッキーのことを誤魔化すので精いっぱいだったんです」


「ああ……いや、すみません。俺もちょっと取り乱しました」


 俺は深く反省する。アデライト先生を責めるのはお門違いだ。


 自己嫌悪。


「ご主人様。おねえちゃんのことを隠すって……どういうことですか?」


 サラが俺の袖を引っ張った。眉をつり上げ、不機嫌な顔になっている。


「俺をドラゴンから助けてくれたのはウィッキーなんだよ。狙撃魔法でな。けど、それぞれの事情があるから一応口裏を合わせる必要があったんだ」


「おねえちゃんが?」


「ああ」


「ご主人様を守ったんですか?」


「そういうこった」


 それきりサラは口をつぐむ。


「物凄く目立っちまったけど……結果的には望む方向に進んでる気はするので」


 先生が首を傾げる。


「ギルドでフィードリットっていうエルフに会いましてね。最初は文句を言って来た感じだったんですけど、なりゆきでその人がエリクサーの入手に手を貸してくれることになったんです」


「フィードリット? そんなまさか……」


「知ってる人です?」


「ええ。知っています。ですが、彼女が冒険者をやっているなんて初耳です。本当にフィードリットと名乗ったんですか?」


「すくなくとも、ギルド長はそう呼んでましたけど。それにあの人の口振りじゃ、二十年も冒険者をやってるって」


「にじゅう……なるほど。私が生まれる前からですか」


 なにやら先生とフィードリットの間には因縁らしきものがありそうだ。たぶんだけど。


「ロートスさん。次にその人と会うのはいつですか?」


「一応、今夜話し合いをすることになっています」


「なら私も同行します。場所はギルドですよね?」


 俺は首肯する。断れる雰囲気でもなさそうだ。


「エリクサーを手に入れる……ロートスさん、やっぱり本気なんですね?」


「まぁ、かわいい妹分のためですからね」


 俺と先生は黙って傍に控えているサラを一瞥する。

 当のサラは頬を赤くして目を逸らしてしまった。


「かわいい妹分達、でしょう?」


「先生」


「うふふ。目立ちたくないと言いつつも人の為に頑張る。さすがです」


「そういうんじゃありませんって」


 今度は俺が照れる番だった。


 まったく。


 とりあえず、晩飯を食ってギルドに向かおう。

 ドラゴンの討伐報酬はちゃっかり貰ったから、金に余裕はあるしな。

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