第111話 ギルドの名誉に誓って
俺はフィードリットに詰め寄った。
「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「な、なんだいきなり」
俺の行動に周りの注目が集まっているような気がするが、この際仕方ない。目立たないことより大切なことだってあるだろう。
フィードリットはのけぞって顔を引き攣らせている。ちょっと近寄りすぎたか。
「エルフの里に、心を治す秘薬があると聞いたんだけど、本当か?」
「心を治す……? エリクサーのことを言っているのか?」
「エリクサー?」
またベタな名前の薬だな。
「ああ。エリクサーなら、心どころかいかなる病もたちどころに治せる。心だけを治す薬など聞いたこともないから、おそらくお前が言っているのはエリクサーだろうな」
「それ、持ってたりしないよな?」
「バカ者。エリクサーは門外不出の秘中の秘。存在そのものは広く知られているとはいえ、実物を持ち出すことは固く禁じられている」
「だよなぁ……」
やっぱ、そんな簡単には行かないか。
しかし、だからといってすんなり諦めるわけにもいかない。
「ギルド長、ものは相談なんですが」
「ほ。なんじゃ?」
「勲章もA級もいりません。代わりに、エリクサーを手に入れられませんか?」
「それはなんとも、無茶な提案じゃな……理由を聞かせてもらえんか?」
俺はサラの肩を抱き寄せてから、頭にぽんと手を置いた。
「俺の従者の恩人が、心の病になってるんです。それをどうにかして治したい。エリクサー以外に、他に方法はないみたいで」
「ほう? それはまた殊勝な理由じゃな。心の病か……スキルによるものかな?」
鋭いな。さすが冒険者ギルドの長を務めるだけのことはある。俺は首肯で答えた。
「なるほど……」
ギルド長は長い髭を撫でながら、フィードリットに視線を移す。
「可能性があるとすれば、おぬしだけじゃな。何とかならんか、フィードリット」
「なんとかって……そもそも何故ワタシがそんなことをしなければならないんだ」
「エリクサーが手に入れば、おぬしの望み通り、ロートスの勲章もA級冒険者の昇格も取り消そう。さらには、エリクサーを手に入れた暁にはおぬしをS級に認定するぞ? どうじゃ? やってみんか?」
「S級……その話、本当か?」
お、フィードリットの心が揺らいでいるぞ。
そりゃそうか、S級になれるチャンスなんか、人生に一度あるかないかだ。長命なエルフといえど、千載一遇の好機であることに変わりはない。
「ギルドの名誉に誓って、マジじゃ」
「マジなのか……」
細い顎を押さえて目を閉じるフィードリット。これは脈ありか?
「まぁ、十中八九無理だとは思うが、物は試しだ。このワタシが協力しよう」
やったぜ。
「その代わり! ちゃんと約束は守ってもらうぞ。ギルド長、ここにいる冒険者や職員全員が証人だ」
「ほっほ。わかっておるとも」
なんとまぁ。
都合のいい展開もあったものだ。
しかし、これで光明が見えたぞ。サラとウィッキーの仲直りも夢じゃない。
「ご主人様……」
サラが感無量といった表情で見上げてくる。
俺はぽんぽんと頭を叩き、微笑むしかない。
「何も言うなサラ。俺に全部任せとけ」
「……はいっ」
正直これに関しては、少しくらい目立ってでも成し遂げたいことだからな。
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