第101話 卒業
夜でよかった。
こんな姿で街中を歩いていたら、目立つことこの上ない。
一直線に帰宅した俺は、宣言通り入浴を優先させた。本来ならギルドへの報告を先にしなければならないが、血や臓物を全身にへばりつけたまま人前に出るのは流石に憚られる。顰蹙を買うのが嫌なんじゃない。目立つのが嫌なんだ。
「ご主人様。お疲れですか?」
「ああ、まぁな」
背後からサラの声。
何気に一緒に風呂に入るのは初めてだ。サラの小さな手が俺の背中をごしごしと磨いている。気持ちがいい。
サラの入浴シーンは出会ってからほぼ毎日見ていたが、こうして一緒に入るのはまた違った趣がある。サラの白い肌はまるで陶磁器のようであり、未成熟とはいえやはり女の体をしている。胸はぺたんこだが、腰から下にかけてのラインが芸術的なまでに男心を刺激する。クソスキル『偽装ED』がなければ即死だった。
「ところでご主人様。あの後どうなったんですか? ファイアフラワードラゴンを二体も倒すなんて、ご主人様には土台無理な話ですよね? なんたって『無職』ですし」
「そうだな」
ここで、ご主人様すごーい、とならないところがサラの良いところだ。主人のことをよく分かっている。うん。
「実際のところ、何が起きたかは俺もよく分かってない。いきなりドラゴンの頭がぶっとんだんだ。たぶんアデライト先生の仕業だとは思うんだが……サラ、そういう魔法とかってあったりするか?」
「頭がぶっとぶ、ですか……」
俺の腰あたりを洗いながら、サラはうーんと可愛らしく唸る。
「アデライト先生は近くにいなかったんですよね」
「おそらくな」
「でしたら、王都からの長距離狙撃ではないでしょうか。そういった高度な攻撃魔法があるというのは、聞いたことがあります」
なるほど、スナイパーか。
しかし、ドラゴンがいた場所は王都から二キーロメントルの距離だ。そんな離れたところからドラゴンの頭を正確に撃ち抜くなんて、とてつもない精度の狙撃だぞ。
「あの人ならやりかねんな……」
なにせ、スペリオルクラスの担任を任されるくらいの人材だ。
俺が考え込んでいると、サラが背中に抱きついてくる。素肌と素肌が触れると、浴室で温まった体がさらに熱くなった気がした。
「なんだ、どうした?」
「ご主人様がご無事で本当によかったです。死んじゃうかと思ったんですから」
「サラ……」
「もうあんな危険なことはしないでくださいね。今回は運が良く助かりましたけど、次もそうだとは限りませんからね。今度危ない時があったら、ボクを囮に使ってください。ボクはご主人様の奴隷なんですから」
「死んでもそんなことはしないが、危ないやり方は控えるようにするよ。お前に心配をかけたくないしな」
「ご主人様」
「俺はお前を奴隷とは思っちゃいない。だから、自分をもっと大切にするんだな」
「それはボクのセリフですよ。もぅ……」
俺はいいんだ。格好つけるのが男の性分ってもんだろう。
この後、サラに前を洗ってもらい、俺もサラを身体を洗ってやってから、入浴を終えた。
具体的にどんなことをしたのかはご想像にお任せするが、俺のクソスキルが役に立ったということだけはこの場ではっきりさせておきたい。
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