第102話 金の心配はするな

 サラと脱衣所を出たところで、ルーチェと出くわした。出くわしたというよりは、俺達が風呂を上がるのを待っていたのだろう。


「さっきギルドの人が訪ねてきてね。さっきの件で、ちゃんと報告に来いだって。ロートス君、一体なにやったの?」


 ルーチェは苦笑気味に言う。


 おおまじか。まさか家に来るとは思っていなかった。

 ギルドへの報告はセレンに任せていたが、やはりドラゴンの件では俺がいないと話にならないのだろう。


「ギルドの人間は、もう帰ったのか?」


「お風呂で従者とお楽しみ中って伝えたらすぐに帰っていったよ」


 サラの顔が赤くなった。風呂上がりで上気した頬が、さらに赤くなるなんて。相当だ。


「間違っちゃいないが、誤解を招く表現だな……。噂になると目立つから、そういうのはやめろよな」


「はーい」


 悪戯っぽく笑うルーチェ。ほんとに分かってんのか。


「それで、今から行くの? ギルド」


「明日でいいだろ。他に行くところもある」


「そう? 報告にこないと報奨金も出せないって言ってたけど」


「報奨金だ?」


 俺はサラと顔を合わせる。

 ナハトモスクの採集には失敗している。報酬の二万エーンはもらえないはずだが。


「あ、ドラゴンの討伐褒賞ですよ。特別危険種に指定されているモンスターを駆除すると、報奨金が出るんです」


 サラの言葉には、ルーチェが驚いていた。


「え、ロートスくんドラゴン倒したの? すごーい!」


「ただの成り行きだ」


 しかし、報奨金が出るのは素直にありがたい。明日から草でも食って生きていく羽目になるところだった。


 だが、やはりそれよりも気になることがあった。


「明日の朝イチでいく。先に行っときたいとこがあるんだ」


 言うまでもなく、アデライト先生のところである。事の詳細を聞きたいし、助けてくれたお礼も言っておかないと。


「それとも、ギルドに行っておいた方がいいか? 面倒なことになるか?」


「や、いいんじゃないかな? ギルドはギルドでいい加減なところもあるし……お役所仕事っていうか。だから、明日の朝でも大丈夫かな」


「そいつはよかった」


 ルーチェがそう言うのなら、それを信じよう。なんたって褐色黒髪ショートの美少女メイド長なのだ。


「じゃあ出かけてくる。ルーチェ、サラ、留守を頼むぞ」


「はい。お任せくださいっ」


「気をつけてね」


 俺は二人を背に、屋敷を後にする。


 夜も遅くなってきたが、やはり気になるものは気になる。俺にとっちゃ、ギルドへの報告より優先すべきことだ。ギルドへの報告を円滑にし、極力目立たないように振る舞う為にも、事情は把握しておいた方がいい。


 俺はアデライト先生に会うべく、ホテル・コーキューへと向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る