第70話 クラス発表っていうか決闘直前の出来事

 新入生たちの視線が、一斉にスクリーンに集まる。


「どうぞー!」


 アデライト先生の元気な声と共に、スクリーンにリストが映し出された。

 クラス別に生徒の名前が表示されている。


 なんか、あれだな。転生前、高校受験の合格発表を見に行った時のことを思い出す。

 頭で考えるのとは関係なく高鳴る鼓動を押さえて、俺はリストを見上げた。


 真っ先に目に入ったのは、最上級のスペリオルクラスだ。

 そもそも人数が少ないから、嫌でも目立つ。そして俺はそこに、見知った名前を見つけてしまった。


「アインアッカ村のエレノア……まじか」


 なんと、エレノアはスペリオルクラスの一員に名を連ねていた。クラスの人数はたった十名。つまり、この数百人の新入生の中で、少なくともベストテンに入る評価ということだ。


「はは。すげぇな」


 俺は素直に称賛を口する。

 なぜならスペリオルクラスには俺の名前はなかったからだ。それだけでも嬉しいぜ。


「エレノアって、アイリスに挑戦状を叩きつけた人ですよね?」


 サラの質問に、首肯で答える。


「ああ、そうだ」


「ボク。あの人なんだか苦手です。強引だったし」


「ああいうやつなんだよ。何に対しても真っすぐていうのかね」


「幼馴染だって仰ってましたよね。ご主人様、あの人と仲いいんですか?」


「それなりにはな」


 サラはちょっとだけ拗ねた顔になる。

 ジェラシーを感じてもらえるとは、愛されている証拠だな。


「マスター。ご覧ください。イキール・ガウマンとヒーモ・ダーメンズの名前が」


「おお?」


 アイリスが指さした先、数十人のマスタークラスのリストに、貴族の息子二人の名前が並んでいた。


「あいつら、同じクラスかよ」


「ええ。粋な計らいをするものですね。アデライト先生も」


「まったくだ」


 俺は思わず笑ってしまう。そしてマスタークラスにも、俺の名前は見当たらない。


 やったぜ。


 ところがだ。


「あれ……?」


 俺はてっきりエリートかベースかボトムのどこかに配属されていると確信していた。だが、そのどこにも俺の名は見当たらない。


 ロートス・アルバレスの名は、どこにもない。


 おかしいな。


 何度も何度も見返したが、やはり俺の名前はない。


「あらあら? どういうことでしょう?」


「ご主人様、もしかして試験に落ちたんじゃ……」


「そんなわけあるか。どこかのクラスには入るはずだろ」


 俺はアデライト先生を見る。

 すると、彼女はじっとこちらを見ていた。


 目が合ったことを確認して、先生は眼鏡の奥からウインクを送ってきた。なんだ可愛らしいな。


 一体どういう意図なんだ?


 俺は先生に事情を聞きに行こうと、こっそりステージに近づこうとした。


 その時だった。


「さぁ! クラス発表も終わったことだ。決闘を始めようじゃないか!」


 ヒーモの生き生きとした声が、雨音を貫き、新入生の渦の中に響き渡った。


 うそだろ? なんなんだアイツ。バカなのか?


 みんな何かを感じ取ったのだろう。新入生達が一斉に拡がり、輪を作る。

 その輪の中には、アカネとメイド達を連れたヒーモと、騎士達を伴ったイキールだけが残されていた。


「ダーメンズ子爵家ヒーモ・ダーメンズ。ここにイキール・ガウマンからの決闘の申し出を受けて立つ!」


 ヒーモの勇ましい声に、新入生たちは大いに沸いた。


 二人の決闘の噂は、昨日の今日ですでに広まっていたようだ。皆、クラス発表もそこそこに、入学早々の大イベントに興味津々であった。

 俺としては、マジでどうでもいいけどな。


「マスター、行ってまいりますわ」


「ああ。用心しろよ」


「ご心配なく」


 その他大勢の中に紛れていた俺は、輪の中心に歩み出ていくアイリスを見送る。

 あいつなら万が一ってことはないと思うが、頼むから俺が目立つような真似だけはしないでほしいな。


 今まさに、ヒーモとイキールの命運を賭けた決闘が始まろうとしていた。

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