第69話 一日の内容が濃いんだよな
といっても、決闘は明日の話だ。
俺にはそんなものよりも重要なイベントがある。
「明日は、楽しみですね」
ヒーモが用意した貴族寮の一室。
大きなベッドの中、サラが笑顔でそう言った。
「楽しみか……不安しかないけどな。憂鬱だ」
「たしかにドキドキしますけど、ワクワクもしませんか?」
「まーな」
サラが言っているのは、クラス発表の話だ。
「ベースクラスになってたらいいんだが」
明日の朝に、新入生のクラス発表が行われる。はたしては俺はどのクラスに配属されるのか。これから三年間の運命やいかに。
俺は隣で眠るサラを右腕で抱き、反対側のアイリスを左腕で抱き寄せる。
なんと素晴らしい寝心地だろうか。
両手に花とはまさにこの事よ。
「マスター。クラス発表も大切ですが、やはり明日の決闘も気掛かりです。ミスター・ダーメンズはあのように仰っていましたが、そう上手くいくものでしょうか?」
「具体的になにが気掛かりだ? お前の力なら、イキールを倒すことなんか簡単だろ?」
「それはそうなのですが……相手側も代理人を立ててこないとも限りません」
「イキールの性格でそれはないと思うけどな」
あんなプライドの高そうな奴。どうせ自分で戦うだろう。ヒーモみたいな腰抜けとは違う。
「だといいのですが……」
結果として、アイリスのこの危惧は現実のものとなる。
俺は自身の考えの甘さを、思い知ることになるのだ。
どういった形でそれが表れたか。
思いがけないことだった。
この翌日。決闘の場に現れたのは、イキール本人でも、奴の従者でもない。
エレノアだったのだ。
だがまずは、そこに至るまでの過程から追っていこう。
俺達が眠りについてから、朝が訪れ、クラス発表の会場に赴いてからの話である。
この日は生憎の雨だった。
そこまで土砂降りというほどではないが、傘がないと厳しいくらいの降水量。
クラス発表は講堂前の広場で行われた。試験が始まった時と同じところだ。
会場にはすでに新入生たちが集まっていた。数百の傘が並ぶ光景は、正直うっとうしい。
「サラ、アイリス。寒くないか?」
「平気です、ご主人様」
「わたくしも、大事ありませんわ」
いま、一本の傘に三人入った状態だ。体を密着をさせてやっと濡れぬか濡れないか。
俺は二人の従者の柔らかさの方が大切だから、雨なんかどうでもいいけどな。
「みなさーん! おはよーございまーす!」
ステージの上に傘を差したアデライト先生が登場した。新入生たちの視線が先生に集まる。
彼女は眼鏡をくいっと上げると、早速ステージ上のスクリーンを起動する。何度見ても魔法ってすごいな。空中に映像が浮かび上がるんだから。科学で言うところのホログラフィックってやつみたいだ。
「昨日は試験お疲れさまでした。皆さんゆっくり休めましたか? しっかり前日の疲れを取っておくのも、この学園で学ぶ上で大切なことですよ」
取れてないな。色々ありすぎてな。まぁそれは仕方ないだろう。昨日みたいにたくさんの面倒ごとが起きるなんて、滅多にないだろう。そうに違いない。
「では、皆さんお待ちかね! クラス発表の時間でーす!」
会場はにわかに騒然となった。
さて、どうなることやら。
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