第10話 世知辛い世の中
俺監視の下、サラは入浴を終える。
彼女はさっぱりしたようだった。ぼさぼさだった髪も綺麗になり、モフモフの耳と尻尾からいい匂いが漂うようになっていた。
店にいた時はボロ布しか着ていなかったから、とりあえず俺が持ってきた替えの服を着せてみる。
「ぶかぶか、ですね」
「そうだな。でもそれがいい」
袖は余り、裾が太ももまで届いている。下着もつけていない状態で俺の服だけを纏うそのコーディネートは、まさに最高だった。
「こういうのが好きなんですか?」
「いや、俺の趣味の話はどうでもいいんだよ。ただの妄言だから流してくれ」
サラは可愛らしく首を傾げる。
話題を変えよう。
「とりあえず、これから何をするかを説明するぞ。サラにもちゃんと理解しておいてもらわないと困るからな」
「は、はい。なんなりと」
俺はサラに今の状況を伝えた。
村を出て魔法学園に入学すること。学園には従者を連れていく必要があること。俺は絶対に目立ちたくないということ。
「以上三点。わかったか」
サラは頷く。
「でもご主人様。ボクみたいな獣人をつれてたら、それはそれで目立ちませんか?」
「なんだと?」
そうか。それは盲点だったな。たしかに、従者は人間じゃないといけないような気がする。
「フード付きのローブでも着てたらわかんないだろ。耳と尻尾がある以外は、人間と変わんないし」
「そうですね。ボク達マルデヒット族は、獣人の中でもかなり人間に近い容姿をしていますから。そういう意味では、従者には適任かもしれません」
サラの表情が少しずつ明るくなっている。奴隷として酷使されるのではなく、従者として扱われると分かりほっとしているようだ。
まあ、現代日本的な感覚が抜けない俺からすれば、年端も行かぬ女の子にひどい仕打ちをするなんてできるわけもないしな。
「ところで、サラのスキルと職業はなんなんだ?」
「はい?」
きょとんと、サラは目を丸くした。
あれ。変なこと言ったか。あ、そうか。サラの歳じゃまだスキルを授かっていないのか。
「ボク達獣人はスキルを持たないんですよ。スキルがないから職業もありません。えっと、ご存じなかったんですか?」
なんだそれは。初耳だ。
そもそも小さな村で細々と生きてきた俺は、この世界のことをあまりよく知らない。田舎者を極めていると言ってもいいレベルだ。
ただ、考えればわかる話でもある。
獣人がスキルを持たないというよりは、人間だけが神からスキルを授かれるのだ。
そして人間社会はスキル至上主義。スキルを持たない獣人を奴隷扱いするのは必然というわけか。
「なるほど。合点がいった」
つくづく、このスキルというシステムは厄介だ。
人は生まれながらに、人生が決まっていると言っても過言ではないのだから。
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