第12話 炎帝の実力
魔力を拳に込めて打ち込んむ。
それをギリギリでかわしては、すぐに反撃に出る。
凄まじい打撃戦の応酬が繰り広げられる。
フィールドの岩場を利用して敵との間合いを詰めたり、死角に入って攻撃を繰り出しりというかなりハイレベルな戦いが続いている。
そしてついに魔力を込めた拳が体に当たる!
重い一撃を受けた選手は衝撃で吹き飛ばされていく。
腹の辺りに当たったように見えたけど、あんなのを食らってしまっては一溜まりもないないだろう。
吹き飛ばされた選手は起き上がる気配がない。
――ゴォォォォォン
闘技場に鐘の音が響き渡った。
「そこまで! 第一デュオ勝者、『エストゥル』!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
第一試合の結果がコールされると、闘技場内から物凄い歓声が沸いた、俺たちを除いては。
『エストゥル』側の席に視線を向けてみると、他の観客と同じようにかなりの盛り上がりを見せていた。
フィールドにはグロンズ先輩とウィリアス先輩が倒れている。
対戦相手も2人の内、1人は倒してあと少しというところまで追いつめたんだけど惜しくも負けてしまった。
素人目に見てもかなりレベルの高い戦いで両者一歩も引かない感じだった。
それでも負けてしまった…。
これで俺たちは残り2試合、どちらも落とすことが出来なくなった。
もう後がない状況だ。
暗いムードが俺たちのベンチに流れる。
「続いて、ソロの試合を開始します。出場選手は所定の位置まで移動してください」
進行役の人がそうアナウンスする。
フィールドにいる4人の内、唯一立っている相手チームの生徒は自分で歩いて出口の方へと向かっていく。
グロンズ先輩とウィリアス先輩、そしてもう1人の倒れている相手チームの選手は担架に乗せられて運ばれていく。
「さあ、切り替えていくぞ。次はお前だな、パーカー。頼んだぞ」
バッカス先生が立ち上がり、みんなの方を向いてパンと一度手をたたいてからパーカーの方に視線を向けてそう言った。
パーカーはふんぞり返った姿勢から、面倒くさそうにゆっくりと立ち上がった。
「チッ、しょうもねー試合しやがって。テメーらは負けねーように精々準備しとけよ」
チラリと俺とウォード先輩を見てそう言うと、ゆっくりとベンチを後にしフィールドの入口へと向かっていった。
あんな態度取ってるんだし正直負けてほしいとも思うけど、もしあいつが負けたらその時点で俺たちの負けとなってしまう。
ここは自分の気持ちを抑えてあいつを応援するしかない。
「彼が負けることはまずないわ。以前の『
そこまで有名人なのかよ…あいつ。
「当然、彼のことは相手だって知っているわ。彼の性格のことも、ね」
「性格?」
性格って、あいつがめっちゃ自信過剰で調子に乗ってるってことか?
それとも普段からみんなのことを見下してるってことの方か?
ていうか、そもそもあいつの性格がどう『武闘競技祭』に関係してくるのかわからない。
「月城君もなんとなく察してはいると思うけど、彼には協調性の欠片もないわ。これまでの『武闘競技祭』でも散々ワンマンプレーをしてきたわ」
確かに。
あいつはみんなの雰囲気を悪くさせるプロだ。
これまでに周りのことを考えない自己中発言を何回も聞いてきた。
あいつが誰かに合わせたりすることなんて、まずないだろう。
「だからチームワークが重要になるデュオで出場するとは考えずらいってことですか?」
「その通りよ。そうなると相手はそのことをふまえてデュオ2つに力を入れてくる可能性が高いわ」
なるほど、そういうことか。
つまり強い相手に強い選手をぶつけるんじゃなくて、強い相手には弱い選手をぶつけて他の2つに強い選手を持ってくるってことか。
「つまり相手のソロは当て馬って感じなんですね」
「まあ言葉は悪いけどそんな感じね」
微妙な表情をしつつも先輩は当て馬っていう言葉を肯定した。
「そして何よりも彼は強い。おそらく『武闘競技祭』の出場資格がある人の中では彼が最強よ」
俺たちの都市の中で一番強いのは知ってたけど、全都市の出場選手の中で最強なのか。
さすがは『炎帝』と呼ばれるだけのことはある。
「なら確実に俺たちに回ってくるわけですけど、授業中に練習した感じでいいですか?」
俺はそう質問した。
演習授業の中で、俺はウォード先輩をペアを組んで練習していたのである程度の基本的な連携攻撃なんかは打ち合わせ済みだ。
「そうね。出来ないことをやろうとせず、出来ることで最大限に頑張りましょう」
出来ないことをやろうとせず、か。
俺は『透過』の能力をまだ使いこなせていない。
まだ使えない力に頼っても仕方ない、ということだろう。
俺と先輩が次の試合に向けて打ち合わせをしている間に、パーカーと対戦相手の準備は完了していてフィールドに立ってお互い睨み合っていた。
相手選手は闘志を燃やした感じの目をしているが、パーカーはなんだか見下したような目で不敵な笑みを浮かべながら相手を見てるように思える。
「これより、『武闘競技祭』トライ・スヴェンダー方式、ソロの試合を開始する」
進行役の人がそう言うと、闘技場内に鐘の音が響き渡った。
まず先に動き出したのは『エストゥル』チームのテーラー選手。
上に跳躍し岩場の上に移動すると、そこから飛び降り一気にパーカーの元に向かって行く。
しかしパーカーの方はそれをただ静かに不敵な笑みを保ったまま見ているだけだ。
このままでは当たってしまうと思った時、ようやくパーカーも動き出した。
右手を肩の高さまで上げて前に出す。
「顕現せよ、炎帝剣アグニスパーダ」
そう口にするとパーカーの右手に一振りの剣が現れた。
柄の部分と刀身の中央部分は黄金色で刃は少しオレンジがかった赤色だ。
かなり豪勢な造りで遠くから見ていても圧倒的な雰囲気を感じることが出来る。
炎帝剣アグニスパーダ。
あの剣こそがパーカーの武器で、剣の力によって所有者は炎を自在に操れるらしい。
そんな剣を掴むと上に向かって一振りする。
すると炎帝剣を振った先から炎が現れ上に飛んでいく。
殴る態勢に入っていたテーラーさんは攻撃するのをやめて近くの岩を蹴って移動して炎を回避した。
テーラーさんはパーカーの隙を
先ほどと同じように炎が出現し剣を振った先、テーラーさんの方に向かって行く。
テーラーさんは高く跳躍すると、岩場の壁面を蹴って移動し岩の陰に隠れた。
これでパーカーの炎を飛ばす攻撃は岩が邪魔で当てることが出来なくなった。
でもこれだとテーラーさんもパーカーに攻撃を当てることが出来ない。
試合が
パーカーが先に動きを見せた。
剣先を上に向けて胸の前で構える。
「隠れたって無駄だぜ。『
そう口にするとパーカーの後ろに炎が現れ、徐々に纏まっていき球体を形成していく。
しかも1つじゃなく5つ同時だ。
大きさは1メートル程だろう。
燃え盛る炎の球が5つがパーカーの後ろに五角形を形作るように並んだ。
胸の前で構えてた剣を下ろすと、今度は左手を前に突き出した。
「行け」
短くそう言うと、5つの炎の球は前に移動し始めた。
そのまま岩場にぶつかるかと思ってみていると、なんと岩を避けてテーラーさんのところに回り込んだ!
それを見て一瞬驚いた様子だったけどすぐに炎の球が来ていない方へと飛び出す。
炎の球はあまり速く動かせないみたいで、テーラーさんとの距離はどんどん離れていく。
それでも炎の球は5つもある。
5つ全てと間合いを取るのは不可能で1つの球がテーラーさんのすぐ近くまで迫っていた。
このまま当たればパーカーの勝ちだ。
俺たちに一勝が入る。
しかし、さすがに代表として出場する選手なだけあって簡単には終わらせてくれない。
魔力を拳に込めて炎の球に一発ぶち込んだ!
炎の球は爆散し、爆風がフィールド中に吹き渡る。
これで1つ壊されてしまったけど、追い打ちを駆けるようにまた1つ、テーラーさんの後方すぐ近くまで迫ってくる。
それを振り向きざまにまた魔力を込めた拳を打ち込んで爆散させる。
これであと3つになった。
このままではいずれ全て壊されてしまう。
どうするんだ?
そう思いパーカーを見てみる。
するとパーカーはさっきと同じように剣先を上に向けて胸の前で構えていた。
また新しく5つの炎の球を出すのか?
確かに数を増やせばそれだけ相手を追い込むことが出来るだろう。
しかし俺の考えとパーカーの考えは違っていたみたいだった。
「『
今度は出現した炎が球体じゃなく長い物の形になっていく。
あれは何だ?
そんな疑問が浮かんだが、すぐに何を形成してるのか理解する。
長い胴体に口から生えた鋭い牙。
間違いない、あれは龍だ。
「そろそろ終わりにしようぜ、なあ!」
目を見開き口元をゆがませながらそう言う。
めっちゃ悪役みたいな顔だ。
炎の龍が残りの炎の球と格闘してるテーラーさんの元まで一気に迫っていく。
スピードは『獄炎球』よりも全然速くテーラーさんが炎の龍に目を向けた時には既に手遅れだった。
腕を前に出して体を守る態勢になるので精一杯で魔力を込めることはできず、炎の龍に飲み込まれた。
数行ほどして炎の龍が消えるとテーラーさんの意識は既に無く地面へと落ちていく。
もう誰が見ても明らかだ。
そう思ってパーカーの方を見てみると、既に炎帝剣をしまっていた。
普段ならどんだけ自身あんだよとツッコみたくなるところだけど、今回は俺にだってすぐにわかった。
――ゴォォォォォン
テーラーさんが地面に落ちてから数秒、鐘の音が鳴った。
「そこまで! ソロ勝者、『アステリア』!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
第一デュオの時同様、物凄い歓声が沸きあがる。
しかもさっきの試合よりもさらに大きい。
まああんな力見せられたら大きな声出したくもなるよな。
興奮冷めやらぬといった感じでしばらくスタンディングオベーションが続く。
これで1勝1敗。
次の試合で決まる。
一度、深呼吸をしてから意を決して立ち上がる。
「頑張れよ!」
「頼んだぞ!」
みんなが声援の言葉をかけてくれる。
普通ならこれで励まされるんだろうけど、今の俺からしたらプレッシャーになってしまう。
ウォード先輩は立ち上がるとゆっくりとみんなの顔を見てからベンチを後にした。
俺と先輩は人気の無い関係者専用の廊下を歩いてフィールドに向かう。
「ここまで来たらあとは気持ちの問題よ。あなたならできるわ、月城君」
先輩が優しく声を掛けてくれる。
「そうですね。俺にやれることなんて限られてるんで、体が朽ち果てるまで戦います!」
「頼もしいわね。でも、無理はしちゃダメよ」
少し力が入りすぎてるんだろうか。
先輩はリラックスしろという感じで軽く肩を振ってみせた。
『結果を残せば褒美をやるというのはどうだ?』
ポケットに入ってる赤い石で俺の相棒のルリアが面白がるようにそう言ってきた。
こいつ、絶対この状況楽しんでるだろ…。
「おい、ルリア、お前何言ってんだよ」
『でも褒美がある方がやる気は出るだろ? 悠翔も男だ。勝てば年上美女が何でも言うことを聞いてくれるとかの方が死に物狂いで頑張るだろ?』
確かに…。
でもそれをここで肯定するわけにはいかない。
なのになぜか否定できない…。
「でも…、あまり無茶をさせるわけにはいかないし…。私が月城君の分まで頑張るわ」
先輩は複雑そうな表情をしてルリアの提案を渋る。
『男っていうのはいざという時に限界異常の力を出せるもんなのさ。何もないよりは悠翔だってやる気が出るだろう』
ルリアよ、お前は一体男の何を知ってると言うんだ。
でも男ってのはそういうもんなんだよな。
先輩はかなり悩んだ様子だったけど、心が決まったのかついに口を開いた。
答えは…、イエスか、それともノーか。
「わかったわ。次の試合で勝てば月城君の言うことを何でも1つだけ聞くわ」
「マジっすか!?」
思わずがっついてしまった。
先輩は少し呆れたような表情をしている。
「本当よ。だから…次の試合、絶対勝つわよ」
うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!
テンション爆上げぇぇぇぇぇぇ!
「この命に代えても次の試合勝ちましょう!」
『命と代えてたら言うこと聞いてもらえなくなるぞ』
テンション上がりすぎて訳のわからない発言をしてしまった俺にルリアから冷静なツッコミが入ってしまった。
それでも勝ちたいという気持ちが今までの1万倍くらいに跳ね上がった!
何が何でも勝ってやる!
今までの人生の中で今が一番、闘志を燃やしてる自信がある。
そんな闘志を胸に俺はフィールドに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます