第4話 燃えるヴェルシュナー

 レニが見た褐色のメックは、全長一○メートルの騎士といった出で立ちだった。身に纏った褐色の装甲は歩くごとに金属音を立てていて、メックに搭載されたジェネレーターは独特のうなり声を上げている。

 左腕には大きなシールドが装着されていて、木々を薙払っている。悲鳴のような音を立てて、幹が裂けていく。


 ——戦争が始まった。


 レニはとっさにそう思った。誰もが口には出さないが、誰もが怖れていた事態が、今レニの前で起こってしまった。


 メックが右腕に付いているフレイムガンが真っ赤な炎を吹き出す。町に入ってすぐの宿屋があっという間に炎に包まれる。

 町はパニックに陥っていた。酒場でたった今まで蜂蜜入りビールを笑いながら飲んでいた町人も、炎が急速に燃え広がっていく光景を目にすると途端に酔いを醒まして逃げ出していく。

 レニがいる場所だって、いつまで安全か分からないのだ。


 その場から離れようとした時、レニの父親が全力で走り去っていく後ろ姿を見た。

「パパ!」

 父親が向かっていた方角には、レニの家がある。何かを取りに行ったのだろうか、それとも家に避難するつもりなのだろうか。どちらにしても危険だ。


 逃げ惑うヴェルシュナーの町人の隙間をすり抜けて、レニは駆け出す。みんな逃げるのに必死だったため他人の様子にまで気を配れた者はいなかったが、その時のレニの走るスピードは異常なまでに速かった。刻々と変化する人の流れを読み、ぶつかって立ち止まることもなく、父の背を追った。

 それでも、レニは追いつくことができない。レニの父親も、彼女同様のスピードで走っていた。


 レニが家に着いた時には、父親がいつも籠もっている小屋に入るところであった。

 立ち止まって呼びかけようとした時、炎の塊が空から降ってきた。よく見ると、それは燃えている荷車であった。火の付いた荷車は父親の入っていった小屋を押し潰す。


「パパ!」


 大地を蹴って、レニは荷車から炎が燃え移りはじめた小屋へと向かう。

 なぜ燃える荷車が降ってきたのか、父親が小屋の中で無事なのか、想像する余裕はなかった。レニの足が反射的に小屋に向かう。


 ドアを勢いよく蹴破ったレニを待っていたのは、猛烈な熱と煙、そして予想していなかった自由落下する感覚であった。

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