第十話 人探し
翌日の昼間、
そのオシャレな恰好とは不釣り合いな大きい肩下げバッグを持っているのがアンバランスと言えばそうだ。通学カバンやその他諸々が入っているのだろう。
始めて見る柳楽の私服に、俺はちょっと目を疑った。やはりこうしていると良家のご令嬢のようである。喋ったら古風なうえにオヤジだが。
「その服どうしたんだ? 制服で来るのはやめろと言ったのは俺だが……」
「そこの
「
「それもどうかと思うのだが」
慣れつつあるくだらない会話を交わしながら車に乗り込む。
「ところで
「ガキ共が投げた泥団子が命中した」
しかも二発。大丈夫と言っているのにごめんなさいと泣き止まないので、ジュースまで
「気の毒な御仁だな。私が汚れを完璧に落としてみせようか。今日一日半裸で過ごすことにはなるが」
「ありがたいが、俺にそんな覚悟は無い」
職務質問から公然わいせつで捕まる。ワイシャツ一枚に人生をかける気はない。
「一度家に戻るかい?」
「いや、もう乾いてるし。着替えてもまた汚れそうな予感がする」
「ふむ……? まぁ貴君がそういうのであればいいだろう。さっそく出発しようではないか」
「あいあいさー」
適当に返事をして車にキーを差し込む。コイツのノリに慣れてきた自分がちょっと怖かった。
「さて、大学まで来てみたが……
「写真は借りてきたがな。これと名前だけで探すには、誰かに訊くしかないだろ。守衛が居て中に入れそうにないんだから」
大学正門の斜め前にあるコンビニに車を停車させて、俺たちは人の出入りを眺めていた。ちょうど昼時なので昼食を買いに出る学生が多い。話を聞くにはうってつけだ。
借りてきた写真は一枚。
「では
柳楽の指さすほうを見る。そこには五人ほどの大学生が集まっていた。髪を変な色に染めて粗暴な印象だ。みんな同じように崩れた服装で、同じような表情をしている。彼等を良く知らない俺からすれば頭の色でしか区別できない。どこの戦隊ものだお前ら。
「待て。あれどう見てもヤンキーだぞ。俺に殴られろと言うのか」
「役割分担としては最適だと思ったのだがね。仕方がない。私が行こう」
「えっ、ちょっ」
止める間もなく
しかし柳楽は男達の前に立つと表情を一変させ、清楚な物腰で微笑みかけた。
「あの……、お休みのところ失礼します。少しお話しをお聞きしたいのですが、いいですか?」
鈴の鳴るような可愛らしい声でそう
「おおっ、ぜんぜんいいぜ! なあ?」
「おう。なんでも訊いてくれ」
顔を見合わせ浮かれて言い合う彼らに、柳楽がまた愛想良く笑って訊く。
「友達から頼まれて、この人を探しているんです。そこの大学に通う方だと思うのですが、ご存知ありませんか?」
言って写真を見せる。男達はそれをこぞって覗き込み、口々に考えを話した。
「どっかで見た気がするな」
「俺も俺も、たぶん経済学部のほうの……」
「
「あっ、確かに見たことあるわ。つか今朝も同じ講義にいたわ。野島だろ? あいつと仲良いのは…………おっ、みっちゃーん! ちょうど良い所に」
宗ちゃんと呼ばれた金髪男が通行人に向かって大きく手を振る。相手は派手な感じの女子大生だった。彼女も宗ちゃんに気づいたらしく、顔を輝かせて胸の辺りで両手を小刻みに振りながら、一緒にいた女子の輪から外れて近づいてきた。
「あー! どしたの宗ちゃん?」
「ちょっと聞きたいことあってなぁ? みっちゃん、野島のグループとよく話すっしょ? 今日も野島いたよな。今どこいるか知らない?」
宗ちゃんが柳楽からひったくった写真をみっちゃんに見せながら訊く。するとみっちゃんはわざとらしく指で唇をぷにぷにして、思い出したというように大きな口を開けた。
「午後は講義ないからって。彼女さんと一緒にさっき大学出てったよー。羨ましいよね」
「だそうだけど!」
宗ちゃんが喜色を浮かべて柳楽を振り返る。みっちゃんはそれを見て露骨に嫌そうな顔をした。わかりやすいなお前ら。傍から見てるおじさんとしては楽しい限りだよ。
一方の柳楽は自分を威嚇する視線をものともせず、そうですねと呟いてからみっちゃんへ近づいた。
「みっちゃんさんでしたか。その野島さんの彼女さん、という方のお名前を教えていただけないでしょうか」
その質問で勘違いしたらしい。柳楽を敵でないと認識したみっちゃんは威嚇を止め、間近にある柳楽の顔に気の抜けた表情で答えた。
「えっ、うん、
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