第37話 諦めきれない心 反撃!

 一方その頃、倒れたGさんは倒れたまま空を見上げていた。


 木々が遮り所々から光が漏れ差し込んでいる。そんな空を見上げながら(負けてしもうたのぉ。全てを出しての結果じゃから満足するべきなんじゃろうかのぉ。)


 戦いをよく知るGさんだからこそ、戦いの末にたとえどんな結果や結末が待っていようとも、それを受け入れなければならないと理解していた。


 戦いには勝者と敗者が存在し、如何に正しかろうとも、如何に意志が強くても、例えどんなに努力したとしても敗北する時は敗北するものである。では強いだけで勝者になり得るかと言えばそうでもない。どれほど強かろうとも負ける時は負けるものだ。そう、強くチャンスを掴む運を持つ者が勝者となる。


 そこに慈悲はなく結果のみが存在する事をGさん知っているのだ。


 敗北を受け入れようと目を閉じるGさんだったが、(やっぱり悔しいのぉ~。もう少し若ければのぉ)若き頃にこの戦いが出来なかったことを悔やむGさんだったが、ふと右手に握りしめた物の感触に気づく。


 その右手を見るGさん。その手には日本刀が握りしめられていた。


 無意識的にも握りしめられ続けている刀。戦いの中で武器を落とすなと言う教えを、長年共に歩んできた体はそれを忠実に守っていた。敗北を受け入れようとしていたGさんだが、その体は未だ諦める事無く刀を握り続けている様であった。


 それを見たGさんは(そうか、そうじゃったか。老いておったのはわしの心の方じゃったか。まだ体も動くというのにのぉ。わしもまだまだじゃな)自分の心の衰えを感じたGさんは苦笑いを浮かべた。


 Gさんは苦笑いを浮かべ終えると、真剣な表情で刀を持つその腕を見つめながら一人呟く。


「すまんかったのぉ。随分と迷惑を掛けた様じゃ、今少し、今少し、わしに付きおうてくれ」


 Gさんそう言いながら刀を持つ右手を左手で掴み、長年自分と共にあった自分の体に感謝すると共に再び戦い続ける事を決意するのだった。




 直人は迫るゴリラ―ド前に、(まずいな、どうする?)痛めた左腕を抑えながらどうするべきか考える直人だがいい考えは浮かばず、とりあえず攻撃魔法を詠唱しようとしたその時。


 直人の背後から飛び出てくる人影、それは直人の横を通り過ぎそのまま一直線に迫るゴリラ―ド向かって行きゴリラ―ドに斬撃を放つ。放たれた斬撃を迎え撃つゴリラ―ド。剣と拳がぶつかり合い火花が散る。


 その人影はGさんであった。ぶつかり合ったGさんとゴリラ―ドはお互い間合いを取るべく一気に下がる。下がったGさんのすぐ後ろには直人がおり、背中越しに話し掛けるGさん。


「直人、すまんのぉ。わしはお前を利用する事にした」

「えっ?」


 それを聞き動揺する直人。だがGさんは動揺する直人を無視して続ける。


「わしはもう元の世界に帰らん!わしはのうこの世界で自分を試してみとうなったんじゃ。じゃがら、お前の意思に関係なく、お前の敵はわしが斬る。お前が死んでしもうたらわしは、元の世界に戻されてしまうからの。これからわしは勝手にお前の剣と成りお前の敵を斬る。どうじゃなんか文句はあるかのぉ?」


 動揺していた直人の表情が苦笑いへと変わり、


「アハハッ、そういうことですか。突然の事でビックリしましたよ。あまり驚かせないでくださいよ」

「うむ、で返答は?」

「それで構わないですよ。これからもよろしく頼みます」

「ではまずは目の前の障害を何とかせねばのぉ」


 Gさんはそう言い直人に背を向けたまま構える。その表情は先ほど戦っていた時とは違い、真剣な表情なのだが張り詰めた感じではなく、とても楽しそうなものだった。


 そんなGさんにゴリラ―ドは、


「障害を排除するだと!先ほどやられたのをもう忘れたのかぁ~?」


 バカにした様な、呆れた様な様子でそう言うと、


「確かにやられたのぉ。じゃがまだわしは負けとらんじゃろ?」


 勝ったと思っていたゴリラ―ドはGさんの予想外の言葉に驚き、声を上げる。


「なにっ!?」

「わしは現にこうして生きておる」

「死にぞこないが、余程死にたいらしいなっ!!」


 Gさんの言う事が気に食わなかったのだろう。叫ぶと同時に襲い掛かるゴリラ―ド。


 そんなゴリラ―ドと正面から打ち合うGさん。しかし力の差には確かな差があり押されるが、それでも懸命に打ち合い続けるGさん。


 そこに逃げ腰だったテルが参戦する。


「だから、俺の存在を忘れてもらっちゃ困るっスよ」


 チャージが終わったのだろう、その表情には余裕があり、動きの切れが戻っている。そんなテルとGさんの二人でも抑えるのがやっと言った様子で戦っている所にゴリラ―ドを目掛け閃光が走る。


「随分と派手にやってくれましたね。おかげで回復に随分と時間が掛かりましたよ」


 そこにいたのはクラリッサだった。閃光の正体はクラリッサの鋭い突きであった。


 クラリッサを見たGさん驚いた表情しながらも、


「いろいろ聞きたいところじゃが、話しは後じゃ。こやつを倒すぞ」

「了解です」

「了解っス」


 クラリッサも加わり、三対一の状況での攻防戦が始まった。依然ゴリラ―ドの方に分があるもの、三人は連携する事でなんとか均衡している。


 そんな戦いに嫌気が差してきたのかゴリラ―ドが怒鳴る。


「ちょろちょろ邪魔くせえってんだよッ!」


 ゴリラ―ドは腕を大きく振り被る。それは今までの大振りとは違い、体をねじり弓の様にしならせているような体勢だ。


 その状態からゴリラ―ドがパンチを放つ、全身をバネの様に使い繰り出されたパンチが地面へとぶつかった。パンチの当たった周辺の地面が砕け爆発したかの様に地面の破片が巻き上げられる。


「なんじゃと!」「なっ!」「マジっすか!」


 予想外の事に三人は驚きの声を漏らす。三人は巻きあがる地面の破片を受け、大きく態勢を崩してしまう。大きく隙の出来た三人にゴリラ―ドが襲い掛かる。


 三人のピンチに走り出す直人。走る直人の右腕に雷の槍が現れた、それをゴリラ―ド目掛けて投げ放つ。投げた直人は止まる事無くゴリラ―ド目掛け走る。


 飛んできた雷の槍をジャンプして避けるゴリラ―ドに直人がライトニングセイバーで斬り掛かる。


「させるかよッ」


 空中にいるゴリラ―ドは避ける事ができずにその攻撃を受け、


「ぐあぁぁッ」


 全身に電気が流れ苦しむゴリラ―ドは、その痛みの為Gさんたちから離れた位置に着地してしまう。着地して直人の方を振り向いたゴリラ―ドは鬼の様な形相で、


「また貴様かッ!」


 言うと同時に直人を目掛けて襲い掛かろうとしたゴリラ―ドだが、いち早く態勢を立て直し駆けつけたクラリッサによって阻まれる。


「ここは通しませんよ」


 槍を構え立ちはだかるクラリッサ。その後ろからGさんとテルも駆けつけ、


「先輩、助かったっスよ。今のはやばかったっスよ」


 そんな軽口を言うテルにGさんが


「話しは後にせい。今は倒す事だけ考えるんじゃ」

「りょ、了解っス」


 Gさんがテルを注意し、テルがそう言うのとほぼ同時に、


「来ます!」


 クラリッサはそう言い、襲い掛かるゴリラ―ドの攻撃を受け止めた。そんなクラリッサを援護すべく、ゴリラ―ドへと攻撃を仕掛けるGさん。それを避ける為に下がるゴリラ―ドに、テルの投げナイフが襲い掛かる。


 その連続攻撃に流石のゴリラ―ドもすべてのナイフを叩き落す事が出来ず、数本のナイフを受けてしまい。


「ぐっ」


 攻撃を受けてゴリラ―ドが声を漏らす。そんなゴリラ―ドを畳み込むべくGさん、クラリッサ、テルの三人が連携による攻撃で攻め立てる。そんな三人の後方で強化魔法を切らす事なくかけ続け、いつでも援護できる態勢で待機する直人。


 こんな戦いの中でも一度として強化魔法を切らす事無く、かけ続けているのだ。この技術こそが直人がトッププレイヤー呼ばれていた由縁である。三重詠唱者の二つ名は伊達ではない。

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