第36話 人は簡単には成長しない

 躱し続けるテル、ゴリラ―ドの大振りな攻撃を躱し、テルは(ここっスかね)と考えると、


「あまいっス。隙だらけなんスよ」


 そう言いテルは腰の後ろにある二本のダガーを抜き放ちゴリラ―ドを斬りつけた。斬りつけたテルは内心で驚いた。(か、固いっス!何なんスかこいつは!)ゴリラ―ドを斬りつけたテルだったが、その傷は浅く薄っすらと血が滲む程度でしかなかった。


 それでもテルはゴリラ―ドの連続で襲い掛かる攻撃を躱しながら、隙を見てはダガーで斬りつけ投げナイフを投げていく。


 そんなテルの戦いを感心しながら見ている【パルセノス】のメンバーたち。


「彼、実にいい動きですね。だからこそでしょうか、火力がないことを余計に惜しく感じますね」


 セルジュがテルを見ながらそう言うと、


「そうね、確かにいい動きですね。でも先ほどのお爺さんの戦いを見た後では少し物足りないと感じてしまいますね」


 シンシアはそう言い、少し申し訳なさそうに苦笑いを浮べる。それを聞いたローゼはGさんの戦いを思い出したのだろう。


「それ、さっきのお爺さんだよね、あれマジで凄かったよね!」

「私としてはスケルトンも良かったと思いますよ」


セルジュは聞かれてもいないのに、そう答えた。


「あぁ、さっきのスケルトンもいい仕事してたね。潰されちゃったけど」


 軽い口調で他人事の様に言うローゼ。そんなローゼとは違いシンシアは、


「最後まで主人に仕えるその姿勢は、スケルトンにしておくのが惜しい人物でしたね」


真剣な表情でそう言うと、ローゼは、


「人物じゃなくて人骨でしょ?」


と、シンシアの発言の軽愚痴を叩いた。するとシンシアとセルジュに冷たい眼差しで見つめられ、


「ちょっ、冗談だからね。スケルトンは頑張ってたと思うよ」


と、焦りローゼは冗談でと主張するのだった。


 【パルセノス】の者たちがそんな会話をしている間も、テルとゴリラ―ドの戦いは続いていた。依然としてゴリラ―ドの攻撃は当たらず、テルの攻撃も致命的なものにならない。


 そんな進展のない戦いに嫌気が差したのだろう。


「ちょろちょろ動きやがって、お前は後回しだ」


 そう言いゴリラ―ドは直人の方を振り向いた。そんなゴリラ―ドにナイフを投げると、両手にダガーを持ち走り出すテル。ゴリラ―ドはテルの動きに気づき、右腕でナイフを薙ぎ払うと向かって来るテルに殴り掛かった。


「てめえは後だと言ってんだろッ!」


 テルはその攻撃を躱し、カウンター気味にダガーで斬りつけた。しかしカウンター気味であったにもかかわらずその傷は浅い、ゴリラ―ドは傷を気にした様子もなくフックの様な横殴りのパンチを繰り出した。


「そんな攻撃効かねえんだよッ!」


 そう言い繰り出された攻撃をテルは躱し距離を取ると、


「逃げちゃダメっすよ。まだ俺との戦いが終わってないんスから」

「ふんっ言ってろ。後で相手をしてやる」


 ゴリラ―ドはテルを相手にせず、直人の方を再び見ると走りだした。直人を目掛け一直線に走り出すゴリラ―ド。それを見たテルは焦る。(まずいっス!)テルはそう思うと同時にゴリラ―ドを追い走り出した。


 走るゴリラ―ド、それを追うテル。スピードではテルに分があるものの、最初の出だしで遅れている為、ゴリラ―ドが直人に辿りつくまでに追いつけるかは微妙なラインであり、焦るテルは(ちょっと待つっスよッ!)と心の中で叫びながら全力で追う。


 その甲斐あってかゴリラードの背後に迫るテルが、ついにゴリラ―ドを射程に捉えた。(追いついたっス。先輩のとこには行かせねえっスよ!)追いつくと同時にゴリラ―ドの背後から襲い掛かるテル。


 テルが襲い掛かるとゴリラ―ドがニヤリと笑うが、背後から斬り掛かるテルにはそれが見えない。次の瞬間、ゴリラ―ドは振り返る動作と同時に裏拳を繰り出した。


 この時、テルは既に攻撃モーションに入っていて止まる事ができない(ダメっス、避けられないっス)そう思うテルに迫る裏拳。振り返るゴリラ―ドは不敵に笑っていた。


 それを見たテルは(やられたっス。読まれて居たんスね)自分が嵌められたことに気づくがすでに遅く、ゴリラ―ドの裏拳がテルを捉えた。


 裏拳がテルに当たった瞬間テルの分身が近くに現れ、裏拳が当たった方のテルは消える。テルのギフトである因果回避である。因果回避によってテルに裏拳が当たった事実は回避され、当たらなかったという結果に変更されたのだ。


 当てたはずの裏拳には何の感触もなく、さらには当たったテルが消えるという事を理解できずにゴリラ―ドは、


「なんだ!? 何をしたんだ? ……お前は一体何なんだ!?」


 狼狽えた様子でそう言った。


「俺っスか!? 俺はかつて黒い悪魔と呼ばれた男っスよ!」


 テルがそう告げるとゴリラ―ドは目を細めテルを見ながら、


「黒い悪魔だと!?」

「そうっス。俺の戦いぶりから人はそう呼ぶようになっんたスよ。あれは十数年前の話しっス。俺が落ち込んでいる時ある男が尋ねて来たんスよ。その男は黒いロングコートを来ていて自分は魔法使いと言うんスよ。俺は尋ねたっス、冗談でしょってそしたらその男は――」


 話していたテルにゴリラ―ドは、


「時間稼ぎに付きあうつもりはねえぞッ!」


と言い放ちながら襲い掛かる。テルはその攻撃を躱しながら、


「ちょっ、まだ話のうわぁッ、だから話の途中なんス」


 テルはそう言いながらも(作戦失敗ッス!やっぱこの作戦には無理があったっス。)と思った。


 テルの作戦とは会話によって五分の時間稼ぎをする事だった。テルの【因果回避】の絶対回避は発動から五分間のチャージが必要なのだ。その為の時間を稼ごうとしていたのだ。


 ゴリラ―ドの次から次へと繰り出す攻撃を躱すテル。だがその姿は、先ほどとはまるで別人の様である。表情からは余裕が消え、回避するその動きもバタバタしたもので、両手両足で這って逃げる姿すらあり、無様なものだった。


 そんなテルの姿を見た直人は、


「戻ってる、昔のテルに」


 そう、この無様な動きこそがテルのエリュシオン時代での動きなのである。実は先ほどまでのテルの、余裕は絶対回避という保険の元に成り立っていたのだ。


 必死で避ける続けるテル、ゴリラ―ド連続で繰り出される攻撃に焦っていたテルは大きくゴリラ―ドから離れてしまう。


 離れた位置で回復しながら見ていたカイは、(バカ、なにやってんだ!離れ過ぎだ)と心の中で叫ぶ。


 ゴリラ―ドはテルが離れると直人の方を向きその攻撃対象を直人へと変える。


 それを見たカイは舌打ちをすると走りだそうとするが、その深刻なダメージの為、足がふらつきバランスも取れずに片膝をついた。(クソッ、足が言う事をきかねえ!直人、逃げろ)カイがそう思う中、無情にもゴリラ―ドは直人へと襲い掛かる。

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