第35話 テルの成長

 直人の考えに答えが出ぬまま、ゴリラ―ドが動こうとしているその時、複数のナイフがゴリラ―ドを目掛けて飛んでくる。


 ゴリラ―ドはバックステップでその場から離れることでナイフを躱した。ゴリラ―ドはナイフを投げてきたテルを見る。


「俺の存在を忘れてもらっちゃ困るっスね」


 そう言うテルにゴリラ―ドは興味なさそうに、


「なんだまだいたのか?」


 それを聞いたテルは不敵な笑みを浮べ、


「いつまでそう言ってられるっスかね」


 テルのその言葉と態度にむっとした表情をゴリラ―ドは浮かべ、テルに攻撃を仕掛けた。テルはその攻撃をあっさりと躱して見せる。


 ゴリラ―ドは避けられると思っていなかったのだろう。少し驚いた様子を見せつつも、次の攻撃を放った。


 テルはその攻撃をも躱して見せるとゴリラ―ドはムキになり、次々に攻撃を繰り出す。テルは攻撃する様子もみせず全ての攻撃を華麗に躱していく。次々と攻撃を躱され困惑したゴリラ―ドは、


「なぜだ!なぜ当たらない?」


と攻撃をしながら怒鳴るように言うゴリラ―ドにテルが、


「強いだけでは俺を捉える事は出来ないッス。」

「ぬかせぇッ!」


 テルの言った事に腹を立てゴリラ―ドの攻撃は激しさを増していく。ゴリラ―ドの凄まじいラッシュが続く、パンチやキックなどが繰り出されるたびに、大きな風切り音をなる。その一つ一つが必殺一撃であり、当たれば致命傷は免れないであろう。


 テルはそんな攻撃を次々と回避していく。イラつくゴリラ―ドの攻撃が大振りとなった。


 その攻撃を躱すとテルは透かさず距離を取り、ナイフを左右の腕で計4本投げ放った。


 投げられたナイフが凄い速度でゴリラ―ドに迫る。ゴリラ―ドに当たると思われたその時、腕の一振りで四本のナイフは叩き落されてしまう。


「ちょこまかちょこまかと、こんな攻撃がこの俺に効くはずねえだろぉッ!」


 ゴリラ―ドにとって脅威とならないその攻撃に、ふざけていると判断したゴリラ―ドは、今まで以上に怒りテルへと襲い掛かる。


 テルは襲い掛かるゴリラ―ドの攻撃を躱しながら、(凄い攻撃っス、当たったらただじゃ済まなさそうっスね。まあ、当たらなければ問題ないっスけど。もう少し煽っていくっスかね)と考えるのだった。




 その頃、直人は痛めた左腕を押えながら近くの木に背を預け、


「やばかった、まさかエリュシオンでの作戦がこんな所で役に立つなんてな」


 直人は呟き、躱し続けるテルを見てさらに呟いた。


「やっぱりお前は回避の天才だよ」


 そう言いい直人はエリュシオンをしていた頃を思い出す。




 直人に誘われ中二の頃にエリュシオンを始めたテル。その時はまだ直人やカイも始めたばかりで弱かった。レベルも低く技術も未熟であったが、既にこの頃からカイはセンス良さの片鱗を戦闘などで見せていた。直人もまた魔法の詠唱速度の速さなどでエリュシオンプレイヤーたちから騒がれていた。


 そんな中テルは特に目立つ才能も見当たらず、戦闘となれば逃げてばかりであった。


 だがそんなある日の事、直人たちはレベルが上がり新しい狩り場に来ていた。格上のモンスターたちに遭遇し、苦戦を強いられていた。激戦の末、何とか勝算が見え始めた時だった。敵を倒し終えたカイが、直人の元へとやって来て声を掛ける。


「おつかれ。何とかなったな」

「ああ、そうだな。まだ終わった訳じゃないけどな」


 直人がそう言うとカイは思い出した様にテルの方を見る。


「また逃げてばかりだな、もう少し何とかならないのか?まあ、敵を引き付けてくれてるから助かってるけどな。助けに行くか」


とカイが直人に提案すると、


「ちょっと待ってくれ」

「何だよ、見捨てるつもりじゃねえんだろ?」


 カイがそう言うと直人は白い目でカイを見ながら、


「お前は俺をどんな人間だと思ってるんだ?」

「重度の厨二病だろ?」

「……」


 カイの返答に押し黙る直人。数秒の沈黙後、直人は、


「まあ冗談はこの位にしてだな――」


と話題を切り替えようと話し出したのだが、それにカイが割り込む。


「いや、冗談じゃないけどな!」

「お、お前な、空気読まずにそう言う事を言ってると、人に嫌われるよ」

「はぁ、べ、別に人に好かれなくても構わねえし、俺は全然気にならねえし、本当だぜ」


必死になりそう言うカイを見て、(やっぱりお前でも気にしてたのね)と直人は思った。


 カイは直人の事は友達と思っていて、直人に対しては思いやりや譲る心を持っているのだが、それ以外の人に対しては自分の考えを譲ることがない。


 その上、その性格からずばずばとモノを言う為、揉める事も多くよくケンカになっていた。しかもこの男、質の悪い事に運動神経がよく、ケンカをさせると負ける事がないのだ。自己中であり喧嘩が強く、ちょい暴君であるカイは周りの人たちに恐れられ避けられていたのだ。


 直人はそんなカイを見てきて、こいつは人の気持ちやどう思われているとかは気にしないのだろうと思っていたのだが、本人は意外と気にしているのだった。


優しい直人はこれ以上この話には触れない様に話を戻す。


「そうだよな、分かってるって、で真面目な話しなんだが」


 直人の素っ気ない返事を不満に思いながらもカイは、


「なんだよ、真面目な話って?」

「テルって実は凄くないか?」


 直人のその言葉が理解できないカイが驚いた様に、


「はぁ?どこがだよ!?」


 そう尋ね直人が話し始めた。


「このエリアの敵は俺たちにとってはちょっと強いだろ?」

「まあ、そうだな」

「そんなモンスター三体に、攻撃され続けてまだ生き残ってるんだぜ。格上のモンスター三体に追われてからだぞ」


 直人の話を聞きモンスターたちに追われるテルを見ながら考えるカイ。


「……」


 考えるカイに直人が、


「普通そんなこと出来ないだろ?」


と尋ねると、カイは少し考えてから、


「あぁ、普通出来ないな」

「だろ、それをテルはやってるんだぜ。俺たちはテルが特に優れたプレイヤースキルを持っていないと思っていたのは間違いだったんじゃないか? あいつはあれだけ攻撃されつづけてて、それを避け続けてるんだぞ。テルは天才なんじゃないか?」


 直人が言った事に首を捻りながらカイは、


「ンンン、逃げるののか?」

「ちげえよ!回避のだよ」

「ああ、そっちのか。だが回避だけじゃどうしようもねえだろ?」

「いやいや、カイそれは違うだろ。才能はどう生かすかだろ!」

「確かにな、でもどう生かすんだ?」

「何言ってんだ、それを俺たち三人で考えていくんだろう」

「そうだな」


こうしてテルの才能は見出され、その後、才能は磨かれていったのだ。




 かつての事を思い出しながら、目の前の戦いを眺めている直人。そこには昔と違い、堂々とした態度で敵の攻撃を躱し続けるテルの姿があった。


 そんなテルの姿を見ている直人は無意識に言葉を漏らす。


「随分と腕を上げたんだな」


 しみじみとした様子でそう直人は呟く。


 最後に直人がエリュシオンで見たテルは、まだまだ荒削りで落ち着きがなく、無駄も多かった。だが、今のテルは敵を見て冷静に回避している。その様子には余裕さえ感じられ、まるで熟練者であるかのような雰囲気を出しており、まるで別人の様であった。


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