第32話 変身ゴリラ―ド!

 唖然としている仲間たちの方に振り返り直人が、


「危なかったな、あと少し遅ければ大変な事になるところだったな」


 唖然としていたカイたちだったが、直人の一言を聞きカイが口を開く。


「何の話をしているんだ直人?」

「やはり気づいてなかったのか? 奴は変身か覚醒は分からないが、しようとしていたんだよ。 未然に防いだから問題はないが」


 本気を出そうとして、出せずに倒されたゴリラーテを哀れに思ったカイは、乾いた笑いを浮べながら、


「はははっ防いだのか……」


と呆れたように言うカイ。


「そういう事じゃったか、いきなりで事で驚いたぞ。しかし、本領を発揮する前に倒してしまうのはちぃと卑怯じゃないかのぉ?」


 そう口にするGさんは本気となったゴリラーテと戦いたかったのか、少し不満がありそうである。そんなGさんがの言葉にテルが、


「言っても無駄っスよ。誰もが待ってしまうところを、待たずに攻撃できる逸材なんスからね、先輩は!」


 仲間のそんな空気に耐えられない直人は、


「違うだろう! 隙がある奴が悪いんだろう。そもそも――」


 自分の言い分を直人が話していると、直人の背後の土煙が薄れ、そこにゴリラーテと思われる存在を見て、カイたちが驚く。直人の背後である為、直人は気づくことができない。だがカイたちの様子の変化に気づき、後ろを振り返る。


 振り返った直人は目を大きく見開き、


「なっ! ……誰だお前は!?」


 最初は驚いた直人だったが、見知らぬ人型モンスターに真剣にツッコむ直人。


 そのモンスターはゴリラ―テに似ているが、人間の様に二本の足で立っていて、サイズが人間の大男程である。つまりゴリラ―テと比べると随分と小さい。そしてそのモンスターは所々が焦げ、血を流していた。


 そんなモンスターに誰だと尋ねる直人を見て、カイたちは思う。どう見てもゴリラ―テだろう!そう、それは変身したゴリラ―テあり、変身を果たしたゴリラ―テをゴリラ―ドと言う。


ゴリラ―ドは直人の方を睨みつけ、


「やってくれたな人間! 許さん! 許さんぞッ!」


と叫び、直人へと襲い掛かるゴリラード。直人は反応が遅れ、ゴリラ―ド接近を許してしまう。


「なっ!」


 腕を振り被り直人へと飛んでくるゴリラ―ド。(ダメだ、避けきれねえ)と直人が思った瞬間、カイとGさんが飛んでくるゴリラ―ドを止めるべく、攻撃を仕掛ける。


 空中に浮いていたゴリラ―ドは攻撃を上手く避ける事が出来ずに、二人の攻撃を受けバランスを崩し墜落する。落下したゴリラ―ドだがすぐに起き上がり、再び直人に襲い掛かる。しかしそれは連続で繰り出される槍に阻まれた。


 クラリッサだ。クラリッサは次々と攻撃を繰り出しながら、


「行かせません!」


 ゴリラ―ドは次から次へと繰り出される攻撃を捌き、躱していく。先ほどまでとは違い、力にものを言わせる戦闘スタイルとは違い洗練された動きへと変わっていた。


 連続で攻撃していた。クラリッサの表情が驚いたものへと変わる。


「なっ」


 クラリッサの槍先がゴリラードに掴まれていた。ゴリラ―ドは右手で掴んだ槍を引きつけ、左手でクラリッサにパンチを放つ。


 引かれた事で体勢を崩し、引き寄せられるクラリッサの腹部にパンチが突き刺さる。


「おごっ」


 殴られたクラリッサは吹っ飛び、数メートル後ろにあった木へと叩きつけられた。


「がはっ」


と血を吐き、倒れるクラリッサ。それを見たカイが、


「てめえーッ」


と激怒しファイヤーボールを放ち、ゴリラ―ドへと突っ込んで行くカイ。ゴリラ―ドはファイヤーボールを難なく躱してしまう。


「チッ」


 走っているカイは、躱された事に舌打ちをして、ゴリラ―ドに迫ると剣を繰り出しす。助走のままから繰り出されたその攻撃をゴリラードは躱す。その動きは変身前の力任せなものではなく無駄のない動きだ。


 攻撃を躱されたカイだが、その攻撃は終わらない。躱された事などお構いなしに次々と繰り出す斬撃。


 しかし、当たらない。繰り出す斬撃の全てが空を斬る。攻撃が当たらぬ事に苛立っつカイは、心の中で呼びかける。


『おい、レア聞こえるか?』

『はい、聞こえてますよ。というより、見てますよ』

『そいつは話が早え、【ドラゴニック・レボリューション】を頼む』

『はいはーい、発動しますね』


 カイはあの後も定期的にレアと話し、今ではかなり打ち解けていた。カイの指示で【ドラゴニック・レボリューション】が発動する。


カイの体が光出し、目がドラゴンの様になり金色へと変わる。


 カイの攻撃速度が一気に上がり、先ほど余裕を持って躱し続けていたゴリラ―ドも余裕を失い両腕を使いガードし始める。その腕は鉄の様に固く傷をつける事が出来ない。


 【ドラゴニック・レボリューション】を使っても攻め切れない事に苛立ち、カイの攻撃が大振りになりだした。その時、カイの斬撃をパンチで弾き、間合い詰めカイの懐へと入り、パンチを繰り出すゴリラ―ド。


 カイは攻撃を弾かれて体勢を崩しており、避ける事ができない。(やべえ、避けられねえ!)ゴリラ―ドのパンチがカイの横腹を捉える。


「ぐはっ」


と、声を漏らすカイ。漏らすと同時にカイの体がくの字に曲がり、下がる頭をゴリラ―ドの二撃目が下から突き上げる。突き上げられたままにカイの頭は上へと上がり、膝は伸びる。


それと同時にゴリラ―ドが右腕を大きく振り被る。


「カイッ!」


 カイのピンチに叫ぶ直人。ゴリラ―ドがその振り被った状態からパンチ放た。


だがそのパンチはカイの顔の横を通り過ぎ、


「危ないとこじゃった。何とか間に合ったのぉ」


 この時Gさんはピンチであるカイを救うべく、尺地と言う高速歩法を使い移動する事でカイの元に行き、カイへと放たれたパンチに居合を当てる事によって軌道を逸らしたのだ。


「すまねえ、助かったぜ」


 カイはそう言っているものの、実は先ほどの攻撃により、一瞬意識が飛んでいてGさんが助けに入った場面を見た訳ではなく、推測で言いながら、(やばかったぜ、なんて威力のパンチなんだ。こんなの迂闊に貰えねえぞ)とゴリラ―ドの危険性を再認識するカイ。


 そんなカイにGさんはニタリ笑い、


「なんじゃ足に来とるのか? 辛いようなら休んどいてもええんじゃぞ」


と挑発的に言うとカイは、


「ははっ、何言ってんだここからがいいところだろ!休むなんて悪い冗談だぜ。そう言うGさんこそ、歳だから辛いんじゃねえのかー?」

「がはははっ、わしが歳じゃと、それこそ悪い冗談じゃ、わしはまだ20年は生きるつもりなんじゃからのぉ。だはははっ」


と、馬鹿笑いをするGさんにカイは苦笑いをしながら、


「はははっ、そんなに生きるつもりなのかよ。そんなに生きたら家族に嫌われるんじゃねえか?」


 カイがそう軽口を叩くとGさんは


「だはははっ、既に嫌われておるわ!」

「……いや、それ笑えねえから」


 カイが微妙な表情でそう言うと、


「そらすまんかったのぉ」


 二人に微妙な沈黙が訪れカイは(だから、なぜそこで謝るんだよ!気まずいだろ!)と、思っていると、


「話は終わったのか?」


 そう声をかけて来たのはゴリラ―ドだった。意外な事に会話中、待ってくれていたのだ。そんなゴリラ―ドにカイは、


「なんだ、待ってくれてたのかよ。でもよかったのか?俺らを倒すチャンスだったと思うが?」


 それを聞いたゴリラ―ドは鼻で笑い、


「どの道、ここでお前たちが死ぬことに変わらない!」


 そう言うとカイとGさん眉間がピクリと動き、表情が険しくなり、


「ほぉー、面白れえ。そいつは試してみたくなったぜ。最後にどっちが立っているのかを」

「じゃ始めるとしようかのぉ」


 先に動いたのはカイたちだ。二人は一直線にゴリラ―ドに突っ込んで行く。間合いに入るとカイとGさんが攻撃を放つがゴリラ―ドはそれを腕であっさりと防ぐ。


 だが防がれてそのまま終わる二人ではない。次から次へと攻撃を繰り出し攻める。カイとGさんの二人による息が合った連撃は凄まじいもので、ゴリラ―ドも先ほどまでの余裕はない。


 だがそれでも二人の攻撃を防ぎ、反撃までしてみせるゴリラ―ド。流石だと言うべきであろう、まだレベル的にゲーム時代よりも劣ると言えど、エリュシオンのトッププレイヤーの二人を同時に相手できるのだから。


 続く攻防戦、双方全く引く様子を見せず、その攻防は激しさを増していく。お互い戦う事で自分の限界に近づいて行っているのだ。戦いにおいて全力を出すという事はそうそうあるものではない。いや恵まれないと言うべきであろう。


 戦いで全力を出すという事は、それは全力を出せる好敵手と戦う必要があるのだ。これは力が均衡する以外に相性も良くなければならない。


 例えるならばボクサーとレスラーを戦わせたとしよう。相手を掴めればレスラーが勝利し、掴めれず戦えばボクサーが勝利するだろう。だがそれは競い合いと言うよりは、どちらに土俵で勝負するのかの戦いであり、どちらもが全力を出せる事はないと言った感じだ。


 双方とも戦いながら自分の持っているステータスを徐々に使いこなしていっており、攻防は激しさを増していく。

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