第8話 貧乏ゲーとか今時流行らねえだろう!
それからしばらくして、城郭都市リカルダが見えてきた。石材が丁寧に隙間なく積まれた、見るからに強固そうな壁で囲まれている。
「でっかい壁っスね!こんな頑丈そうな壁は初めて見たっス」
今まで見たことがないからなのか、テルは物凄く興奮しているようだ。そんなテルを見たカイは
「浮かれ過ぎだ。気ぃ抜いてっと、足元すくわれることになるぞ」
「まぁ少しくらい、いんじゃないか?街も、もうすぐそこだろ。実は俺も楽しみなんだよ。街に着いたら、武器屋を見に行かないかカイ?」
直人がカイにそう言い、笑顔を向けると
「武器屋か、いいな。いいぜ一緒に行くよ」
「武器屋ッスか、俺も行きたいっス!棍棒卒業ッス!」
そんなテルに、直人は現実を告げる
「全ては、街の物価次第だがな。まぁ見るだけでも楽しいだろ」
「見るだけは嫌ッス!悲しいッス!」
「まぁ悲しくても物価次第だからな。そこら辺どうなのアラン君」
「直人さん達は、幾らぐらい持っているんですか?」
直人は尋ねてきたアランに、ゴブリンの持っていた硬貨を渡した。アランはそれを数え
「入場料、補償金、宿代払ったらほとんど残らないですね」
カイは渋い顔をして
「おいおい、夢も希望もねえな。貧乏ゲーとか今時流行らねえだろう!」
「そうっスよ!異世界もので貧乏とか聞いたことねぇっスよ!棍棒装備の召喚者とか、小説とか含めても俺達が初じゃないッスか」
「じゃ題名は、転移したら装備が棍棒だった件について、で決まりだな」
直人がそう言うと、カイとテルは笑い出し
「はははは、誰得だよ」
そんな二人を見ているとアランの声が聞こえてきた。
「直人さんもう入り口ですよ」
アランに言われ、門の方を見ると、その門はとても大きく木と鉄できている。例え大型のモンスターが襲ってきてもそう簡単に破られないだろう。門の左右には監視塔。流石は城郭都市と言ったところだろうか。門のところには数人の衛兵が立っている。衛兵の一人がこちらに気づき、話しかけてくる。
「おぉ!アランじゃないか、無事帰ってきたんだな!」
アランは頭を掻きながら
「いや~無事ではなかったんですが、この人達に助けてもらいました」
アランは苦笑いを浮かべ事情を説明していた。アランの仲間達も、それぞれ衛兵の人達と話をしている。話が終わったのか、衛兵のおじさんが近づいてきて
「アランから聞いたぞ!アラン達を助けてくれたんだってな、ありがとう。俺は衛兵のエギルだ、よろしくな」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。俺は直人です、こっちはカイで、こっちがテルです」
「お前達旅人らしいな、何かあったら俺のところに来い。相談にのるぞぉ」
(兵士と言うよりは、世話好きの近所のおじさんと言ったところか)
「あ、どうも」
直人はおじさんのその、余りの熱さに呆気に取られる。だがおじさんはお構いなしに話を続ける。
「お前ら身分証が無いらしいな。本来は補償金が必要だが、特別に入場料だけでいいぞ」
直人は考える。このおじさんにそんな権限があるのか?意外と偉い人なのだろうか?
「え、そんなことして良いんですか?」
「バレたらまずいが、バレなければ大丈夫だ」
そう言いニヤリと笑いかけてくる。
「……ありがとうございます」
本当に良いのか不安になりアランに視線を向けると、同じタイミングで顔を背けられた。
直人たちはおじちゃん達に別れを告げ門をくぐる。街を歩き始めると、店や露店が多く活気に溢れている。
「直人さん、俺達このまま冒険者ギルドに行こうと思ってるんですけど、直人さん達はどうしますか?」
「俺達も冒険者ギルドに入ろうと思っているからついていくよ、それでいいよな?」
と、直人がカイの方を見ると、カイは頷いた。主要道路を行き交う人々を避けつつ、アランとともにギルドへ移動する。
「着きました、ここが冒険者ギルドです」
言われた場所には、石造りの風格のある大きな建物があった。
入り口の扉は両開きになっていて、普通の扉より大きく、四人同時でも優に通れそうだ。入口にある看板には、剣と盾の絵が描かれている。直人たちはアランを先頭にギルドへと入った。
中に入ると、床は石で壁は暗めの木材を使ってあり、落ち着いた雰囲気となっている。右に酒場、左には受付と幾つかのボードらしきものに、沢山の紙が貼りつけられている。
「こっちです直人さん。すぐに冒険者登録しますか?」
「そうだな、そうするよ」
「分かりました、ちょっと待ってて下さい」
アランは仲間達の方へ振り返り
「ジーナ、クエストの報告してきてくれないか?俺は直人さん達を案内するから」
「りょうかーい、報告済ましとくね」
ジーナは、ノーマンとマリーを連れて報告に行った。それを見送ったアランはこちらを振り向き
「じゃ直人さん行きましょうか、こっちです」
アランは左の方の人が多く並んでいる受付に向かって歩き出す。疑問に思った直人は、アランを呼び止める。
「右の方が空いてるぞ?一番端なんて誰も並んでないぞ?」
と直人が尋ねるとアランは納得した様な表情をし
「あぁ、あっちは冒険者専用なんですよ、だからこっちですね」
俺達は列に並ぶと、受付の説明をしてくれた。
アランの説明によると、左の三つの受付がクエスト依頼や、相談、冒険者登録用の受付で、その隣四つがクエスト受注や報告用の受付で、右端にある一つは、高ランク冒険者用でBランク以上専用という事だ。
それを聞いたテルが
「いいっスね、いつかは並びたいっスね」
「いつかじゃ困る、近いうちじゃないとな」
カイのその言葉に、驚いたアランが
「す、凄い自信ですね、でもカイさんが言うと冗談に聞こえないから不思議ですね」
そんな三人の会話に直人は
「それは先の話だろ、まずは冒険者登録と棍棒卒業だろ」
そう言うと三人は笑い始め、直人たちは笑いあうのだった。
暫くすると直人たちの順番が回って来た、すると受付嬢が声を掛けてきた。
「あら、アラン君じゃない、どうしたの?」
「知り合いの冒険者登録をしに来ました」
「そうなんだ。後ろの三人かな?」
「そうです」
受付嬢はカウンターに三枚の用紙を置いて
「この用紙に記入してください。文字を書けないなら代筆もしますよ?」
直人は用紙を取り目を通すと、日本語ではないが文字が理解できる。書けそうだな。
「大丈夫です、書けそうです」
記入項目は、名前、年齢、性別、職業、暗証番号だけの簡単なものだった。記入していると、カイが尋ねてきた。
「俺、職業なんて書けばいいんだ?」
カイが何を言っているのか分からなかったが、カイの職業を思い出した。そう言えば、勇者だったな。直人はアランの元に行きこっそり聞く。
「カイの職業が勇者なんだが、これは書いても問題にならないか?」
アランは不思議そうに、
「確かに勇者は珍しい職業ですけど、ただの職業なんで問題ないですよ」
「大丈夫なのか?国王様に呼び出されて、魔王とか、ドラゴン倒しに行けとか言われないよな?」
「大丈夫ですよ。確かに、魔王やドラゴンを倒した人の中に、勇者が多いというのはありますけどね」
「了解した」
直人はカイのところに戻り、大丈夫だと伝えた。
直人たちは書き終えた用紙を提出する。受付嬢はカードを出すと、そのカードで提出した用紙をなぞっていく。なぞり終えるとカードをカウンターに置き
「このカードの端の方に血を一滴垂らしてください」
と言い、針を渡してきた。直人たちは指先を刺して血をカードに垂らすと、続けてカードを触るように言われ、触れると記入した内容が浮かび上がってきた。
「ご本人が触れると文字が浮かび上がり身分証になります。これで登録完了ですね。ギルドカードはギルドでの貯金や引き出したりするのにも必要になるので大事にして下さいね。では冒険者の説明をしていきますね」
最初に説明されたのは、冒険者ギルドについてだった。冒険者ギルドっていう社会組織は、多数の国に存在し、多くの国家で受け入れられている。ならず者に仕事を与える事で制御し、国にも税を安定して治める組織。それにより冒険者ギルドは、多くの国家に受け入れられている。ギルド職員の説明によるとそういう事らしいが、直人はなんとも怪しげな話だと思った。
冒険者にはランクが存在し、SS、S、A、B、C、D、E、Fの順となっている。ランクにより受けられるクエストの上限があり、自分のランクの一つ上のクエストまでしか受けれない。そして一定以上のクエストをこなすことにより、ランクが上がっていく。当然、直人たちは一つも依頼を達成してないので、最低ランクからのスタートとなるとのことだった。
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