第9話 お約束とAランク冒険者

 直人たちが冒険者登録を終えると、アランが声を掛けてきた。


「登録お疲れ様です」

「助かったよ、アラン君。付きあってくれてありがとう」


 直人がアランにお礼を言い終えると、カイが直人の肩を叩いた。直人が振り返るとカイが顎で示し


「直人、あっち見てみろ」


 直人がカイの示した方を見ると、柄の悪い男達がこちらを見てニヤニヤしている。見た感じ男達の年齢は三十代後半と言ったところか。頬が赤く酔っているのが見て取れる。それを見たテルがほくそ笑み話し掛けてくる。


「これはお約束のテンプレじゃないっスか?マジで居るんスね、ぷぷっ」


 直人とカイも笑いを堪えているとその態度が気に入らなかったのか、男達が近づいてくる。

「おいおいテル、おじさんたちお怒りだぞ、どうすんだ?」


 直人がテルに冗談めかして問いかけると、テルは得意げな顔で


「大丈夫っスよ、俺に任しておくっス」


 テルはそう言い男達の前に進み出る。男たちは進み出たテルの態度が、気にいらないのだろう。男たちは苛立っている様で、


「なにニヤニヤしてんだ、てめぇ」

「昼間から飲んだくれてるなんて、よっぽど暇なんっスね。俺たちは忙しいっスから、雑魚にかまってる暇ないっス」


 男の顔が見て取れるほど引きつり、


「ンだとぉ!?てめぇ」


という叫びと共に殴り掛かった。殴り掛かられたテルは、余裕の態度を崩さず殴られた。殴られたと思われた瞬間、テルが分身した。次の瞬間殴られた方のテルが消え、殴り掛かった男は、テルが消えたことによりバランスを崩した。テルはドヤ顔を決めて


「残ッゲェー――」


 おそらく「残像ッス!」という決め台詞を言おうとしたのだろうが、その途中にもう一人の男の蹴りが腹に決まり、テルは倒れうずくまった。それを見た直人は(おいおいテル君、任せろって言わなかったけ?何で寝てるの!?)と心の中で突っ込んだ。蹴りを入れた男は、うずくまったテルを見て、


「おいおい、一撃かよ。粋がってた割には、大したことねえじゃねえか」

「さっきは随分と舐めた口利いてくれたな。まだ終いには早えぞ、ほら立てや」


と言い最初に殴り掛かった男が、うずくまるテルの髪を掴む。


 それを見て直人は、このままでは不味いと思い助けに入ることにする。牽制する為、直人が持つ最大の武器である魔法を発動させた。両手にファイヤーボールを出し、


「そこまでにしてもらおうか!それ以上、連れに手を出せば、炎の海に身を沈めることになるだろう」


 周りから幾つもの声が聞こえてくる。「炎の海……」「ギルドで魔法だと……」「同時詠唱……」「粋がいいのが来たじゃねえか……」男達が直人の方を見ると、テルから手を放し後ずさりしている。


「お前ら何やってるんだ!」


 突然聞こえてくる怒鳴り声の方を向くと、金髪の無精ひげを生やした精悍そうな顔立ちの男が立っていた。その男は鎧を身にまとい、背に大剣を背負っていた。


 柄の悪い男達は、苦々しいそうな顔をして「チッ、ガイルか」「やべッ、ガイルだ」などとぼやいている。金髪の男は柄の悪い男達に近づくと、蹲っているテルをかばうように立つと、


「また、お前達か!ギルドで騒ぎを起こすなと何度言えばわかるんだ!?」

「俺らのせいじゃねえよ。そこで無様に這いつくばってるガキが、口の利き方も知らねえからよ。礼儀ってモンを教えてやっただけだぜ」


 柄が悪い男がそう言うと、金髪の男はうずまるテルを見て


「なら、もういいだろう?」


 その、落ち着いていながらも、有無を言わせぬ口調に、男達がたじろいでいた。


「ああ、わかった。さすがにおめぇさんを敵にまわすつもりはねえからな。おら、行くぞおめぇら」


 そう言い男達は去って行った。


 直人がそれを見送っていると、金髪の男が直人の方を見て


「ギルドでの魔法は禁止だ!」


 言われて直人は、魔法を発動したままだった事を思い出して、慌てて魔法を引っ込めた。金髪の男は、しゃがみ込んでテルに手を貸しながら


「立てるか?」


 テルは手を貸してもらい立ち上がると、こちらに戻ってくる。


「いや~、まさか二人がかりで襲って来るとは思わなかったっスね。あいつら卑怯もんっスね」


 直人は心の中で思う。(さっきまでうずくまってた奴のセリフとは思えない。そもそも何故、一対一だと思ったんだ? どう見ても、正々堂々と戦う様な相手じゃないだろ……カイ、この子どうしよう?)直人がカイの方を見ると、カイも呆れた様な表情をしていた。


 金髪の男はこちらに近づいて来ると


「お前達見ない顔だな、新入りか?」

「あ、はい、今登録し終わったところですね」


と直人が答えると


「俺は冒険者チーム【フェンリル】のガイルだ。お前さんたち、名は?」

「俺は直人です」

「カイだ」

「テルっス」

「お前たちの名、覚えておこう。騒ぎは程々にな」


と言い去って行った。


 ガイルが去ると見計らった様にジーナたちが駆け寄って来た。


「今のAランク冒険者のガイルさんじゃなかった?」


 興味津々な様子で聞いてくる。それに答えたのはアランだった。


「あぁ、そうだよ」

「なにがあったの?」


 今までの経緯をジーナ達に話すと、


「あらら、そうだったんだ。テルさん大変でしたね」


 ジーナが苦笑い浮かべそう言うと、


「そうなんスよ。とんでもない卑怯者で大変だったっス」

「テルさん、大丈夫ですか?回復魔法掛けましょうか?」


 心配そうな表情浮かべ尋ねるマリー。優しい子だ。テルの事を本当に、心配しているようだ。


「もう大丈夫っスよ。平気、平気っスよ」


 テルが元気そうに言うと、マリーは安心したのか、ホッとした様な顔をしていた。


「ガイルさんに名前を覚えられたって事は、目を付けられたって事だよな、これから大変だな」


 そう言うノーマンに直人は(他人事だなノーマン、まぁお前にとっては他人事なんだろうがな)


「ガイルって強いのか?」


 カイが尋ねると、


「強いの強くないのって、そりゃ強いよ!Aランク冒険者だよ?巨人殺しのガイルだぞ」


 ノーマンはガイルに憧れがあるのだろう。さっきと違って興奮した感じの物言いだ。それに補足する様に言うアラン。


「そうですよ。ガイルさんはこの街でトップ3に入る、冒険者パーティー、フェンリルのリーダーですからね」

「ガイルさんって、あんな性格でしょ。ギルドからの信頼も厚いのよ。冒険者や街の人の間では兄貴的存在って感じで……うまく言えないけど、その……」


 ジーナがうまい言葉が出てこなくて、困ったような顔をしたところに、ノーマンが助け舟を出す様に言う。


「普段はおっかないけど、いざという時には頼りになるって事だろう!?」


 ジーナがうれしそうな顔をして、その言葉に飛びついた。


「それそれ!」

「なるほどな」


 カイはそう言いながら納得したように頷いているとテルが


「そいつはおっかないっスね。怒らせないようにした方がよさそうっスね」

「そうだな」


と直人が言うと、カイもテルも納得した様な顔をしていた。


 その後、直人たちは冒険者ギルドから出ると、アランがお金を渡してきた。これは道中に直人たちが倒した分の、モンスターの討伐報酬と魔石の代金らしい。


 直人たちが倒したモンスターの討伐証明部位と、魔石をアラン達は取ってきてくれていた。直人は思う(アランやっぱりお前はいい奴だ、流石イケメン)


 魔石は魔道具を動かす燃料とのことだ。魔道具とは地球で言う電化製品などと思っていいようだ。つまり魔石とは、地球でいう電池やコンセントのかわりだと言うことだ。使い続けていると魔石は赤から透明になっていき、最後は砕けて消えるとのことだ。


 それ故、魔石の常に必要とされ、一定の価格で買い取られているとの事だ。


 直人たちはアランたちに宿を紹介してもらった。プ二の宿といい、低ランク冒険者にオススメの宿だという事だ。ちなみに、アランたちもこの宿を利用しているという事だ。


 この宿には、二人部屋と四人部屋があり、直人たちは四人部屋で泊まることにした。直人たちは宿にある食堂で食事を済ませた。ゴブリンの肉とは違いとても美味しかったが、直人たちは調味料が欲しいと思った。


 どうやら、異世界には調味料があまりないようだ。これは今後無視できない課題だなと直人たちは思った。


 食事を済ませ部屋に戻って、直人たちは今後の事について話し合った結果、カイは一時的に元の世界に戻りたい、とのことだ。カイは現在、無職で引きこもっているため、戻る必要は特に無いのだが、流石に二日間部屋から出てこないと親が心配するから戻るとのこと。テルは、バイト中の召喚だったため病院に入院していると思われ、退院したらNINEに連絡してくることになった。


 最初にカイを帰還する事になった。召喚魔法(異)の帰還方法は二つあり、召喚主が召喚者に触れ念じる方法と死亡する事で帰還がある。つまり召喚者の死とは、帰還を意味する。ただし、死亡による帰還には24時間の間、再召喚出来なくなるペナルティーがある。


 直人はカイに触れ帰還と念じる。すると、カイの体が透けていき、消えていった。無事に帰還できたようだ。


 直人はNINEで招待を送り待つと、カイは一時間経たずに戻ってきた。次にテルを送り返した。


 部屋に直人とカイの二人になると、カイが声を掛けてきた。


「色々あったから直人も疲れただろ。今日はゆっくり休んどけ。俺はちょっと出てくるよ」


と言い荷物を持つと扉に向かうカイ。どこに行くんだろう?気になった直人は尋ねた。


「こんな時間に、どこに行くんだ?」


 カイは振り向くと、


「ちょっとな、遅くなるから寝といていいぜ。じゃ行ってくるよ」


と言いカイは部屋から出ていった。一人になった直人は、ベッドに横になるとその途端に睡魔に襲われた。(色々あったからな、疲れてるのかな……)そのまま直人は眠りについた。

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