第7話 この世界ゴブリンが多くないか!?

 食事を終えて、しばらく歩いていると突然、悲鳴が聞こえた。


「今の悲鳴じゃないっスか!?」

「ああ、どうする直人?」

「行くだけ行ってみようぜ、取りあえず様子見だけでも」

「そうっスね」

「俺が先行する、遅れるなよ」


 言い終わるや否や走り出すカイ。直人たちも慌てて後を追う。近づくにしたがって悲鳴は大きく聞こえてくる。


 さらに進んだところで、カイは立ち止まり振り返り口元に手を当て「ッシー」と、合図を送ってくる。カイの指示に従い直人たちは足を止め、木の陰から様子を窺った。


 そこには、多くのゴブリン達に若者たちが囲まれていた。その内の一人が倒れている。どうやらそれを庇いながら戦っているようだ。カイが小声で言ってくる。


「数が多いな、どうする?」


 カイが言うように数が多い、30は下らないだろう。直人はテルを見る。直人の視線に気づいたテルは


「助けれるなら助けたいっス」

「よし、助けに入るぞ」


 カイを先頭に走り出す。カイはゴブリン達を薙ぎ払い、包囲を破り、直人たちは囲まれている人達のところにたどり着いた。


「助けに来た、大丈夫か?」


 直人がそう声を掛けると、パーティーのリーダーと思われる金髪の青年は直人を見て、


「ありがとうございます!助かります」


 直人は倒れている人を見る。少年が頭から血を流し倒れている。直人は倒れている少年に近づき状態を確認する。意識はないが、呼吸はしている。


「ヒーラーはいるか?」

「はい私です」


 名乗りを上げたのは水色の髪をした少女だった。


「彼の回復を頼む」

「はい!分かりました」


 少女が彼の治療を始めたのを確認し、直人は立ち上がり周りを見渡す。ゴブリンをこっちに来させない様にそれぞれが戦っている。直人が立ち上がったのに気づいたのかカイが、


「おせーぞ直人」


 カイの周りには数体のゴブリンが倒れている。


「わりー待たせたな」

「この数だと、出し惜しみはしていられないな。直人、一気に行け」


(出し惜しみ無しだと、つまりは全開だな!いいだろ)そう心の中で呟くと、直人の中で何かが解放された。


「了解だ、俺の炎で全て焼きつくしてやろう」


 直人は両手にファイヤーボールを出し、ゴブリンへ向けて放つ。


「す、すごい!あれだけの大きさのファイヤーボールを、同時に二発も……」


 直人が声の方をチラ見すると、青年が目を見開き驚いた表情をしている。それを見て直人は気分が昂揚していくのを感じていた。


 驚いているのは人だけではなく、ゴブリン達も同様のようだ。仲間を焼かれ怒ったのか、ゴブリン達は雄叫びをあげながら直人に向かってくる。


「力の差を教えてやろう」


 直人はファイヤーアローを両手で連続で詠唱し、向かってくるゴブリン達に次から次に叩き込む。


「なんて詠唱速度だ!速すぎる!」

「すごい!あんなに連続で打てるものなの!?」

「いったいMPはどうなってるの!?」


 後ろから次々に聞こえる、青年達の驚きの声。(速すぎる?俺の詠唱速度にはもう一段階、上がある。見せてやろう)調子に乗って直人はさらに詠唱速度を上げた。


 次々に倒されていく仲間を見て逃げ出すゴブリンにはファイヤーボールを放ってやった。訪れる静寂、辺り一面にはゴブリン達の血と亡骸が溢れていた。


 直人はその光景を見て思う、(今、俺は輝いている!)直人は羨望の眼差しと、歓声を期待し振り返ると、そこにあったのは青年たちの怯えた表情と、カイとテルの苦笑いだった。


 カイは辺りを見渡しながら


「派手にやったなー」

「ははは~、いやースゲーッスねー。先輩の厨二モード久しぶり見たっスけど、ぱねーっスね」


と、言うテルは呆れた様な顔をしている。そんな周りの反応をみて、直人は尋ねる。


「……俺、やっちゃった?」

「見てわからないか、直人」

「……あはははは」


 とりあえず、笑って誤魔化す直人。


 そんなやり取りをしていると、青年たちが騒ぎ出した。倒れている少年の意識が戻ったようだ。直人たちが青年たちの方に近づいていくと、パーティーのリーダーらしき青年が頭を下げてきた。


「ありがとうございます、助かりました。僕は、冒険者のアランです」


 それに続いてアランの仲間たちも自己紹介をしてきたので、直人たちも自己紹介をすることになった。金髪の爽やかな戦士のアラン、茶髪の少年魔法使いノーマン、オレンジ色の髪のレンジャー少女ジーナ、水色髪の治癒師の少女マリー、彼らは【GANM(ガンマ)】というチームで活動を始めたばかりで、この森にゴブリンを退治しに来たと、冒険者カードを見せながら教えてくれた。


「あの~、直人さん達は冒険者なのですか?」


 直人は何と答えていいのか分からずカイの方を見ると


「俺達は旅の者だ」

「旅人ですか?その、失礼かと思いますがその装備でですか?」


 直人はカイとテルを見て思う。(確かに酷い装備だ。ゴブリンの血で染まった布の服と、棍棒……つまりアラン君たちは、そんな装備で大丈夫か、と言いたい訳ですね)


「我々なら、この装備で十分だと思っている。なぁテル」


 直人がテルにそう振ると、テルは驚いた表情をして


「えッ!!……そ、そうっスね」

「た、確かに。あの強さを考えれば……その、レベルはおいくつくらいですか?」


 直人が困った顔をすると、アランは慌てて


「すいません!答えにくいのなら、答えなくていいです」


 直人は考える。辻褄合わせるの無理じゃね? 今の現状、情報はあまりもらしたくはないが、アランこいつはいい奴そうだし、口止めすれば大丈夫なんじゃないかと考える。そもそも他の三人は、怯えているのか距離を感じる。ここはアラン一択だろと考えた直人はアランに声をかけた。


「アラン君、ちょっと向こうで二人で話さないか?」

「え、いいですよ」


 直人とアランは皆からすこし離れて


「これから話す事は他言無用で頼む、いいか?」

「あ、はい」


 いつの間にかやってきたカイが、機嫌悪そうに、


「何の話をしてるんだ」


直人は機嫌の悪いカイに焦り、言い訳の様に話はじめた。


「いや、誤魔化すの難しいし、色々と情報とかも欲しいだろ。だから経緯を話そうかと。ほらアラン君、好青年ぽいし、イケメンだし信用出来そうだろ?」

「確かに情報は欲しいがな」

「だろ! ナイスアイデアだろ!?」


 カイは考えるようにアゴに指を当てる。少し考える素振りをした後、こっそりと直人に耳打ちする。


「ちょっといいか」


 アランから離れると、カイは真剣そうな表情で、いつも以上に低い声で直人に言った。


「話すのはいいが、裏切られたら口封じまで考えているなら俺からは言う事はないがな」


 カイの口封じという言葉に直人は驚いた。


「えっ!口封じって何?まさか、殺すってこと?」

「可能性もある、ということだ。ここは異世界だ。些細なミスで命を落とすこともあり得る。日本と同じで考えるなよ」


 カイに言われ直人は納得する。ここは日本ではなく異世界なのだ。平和な日本とは違い、自分の命がいつ危うくなるかわからないのだと。


「なるほどな、確かにそうだな。気を付けるよ」

「分かってれば異論はないな。情報は欲しいからな」

「じゃ、話そうか。戻るぞ」


 直人たちはアランの元に戻り


「ごめん、待たせたね」


 直人たちが今までの経緯をアランに話すと、


「えッ!レベル2なんですか!?」

「あぁ、レベル2だ」

「どんなステータスしてるんですか。見せてもらっていいですか?」

「ああ、いいぞ」


 直人はステータスを開いて見せると、アランは大きく目を見開き


「な、何ですかこのステータス……」


 驚き唖然としているアランを見て、(え、なに?このステータスはまずいのか?)と、直人は不安な気持ちを悟られないように尋ねる。


「なんか問題でも?」

「いや、問題はないんですが、このステータスはヤバいです。直接S見たの初めてです」

「そうか……」


 返答に困っていると横からカイが


「直接見るのが初めてってだけで、別にSくらい居るだろう?」

「まぁ居ますけど……俺のステータス見てみます?」



ステータス

名前:アラン

種族:人間

性別:男

年齢:18歳

職業:戦士

称号:冒険者期待のルーキー


Lv10

HP :C

MP :F

攻撃力 :B

防御力 :C+

素早さ :C−

器用さ :D

賢さ :F

運 :C

能力 :無し

アビリティ: 剣術Lv5 斧Lv5 盾Lv5



「なるほど……」


 直人はアランのステータスを見て、(弱くないか、これで期待のルーキーなのか?)何と言っていいのかわからずに、言葉に詰まっていると、


「弱いな!冒険者のステータスはこんなものなのか?」


 カイの歯に衣着せぬ物言いにアランは苦笑いしている。


「大体こんなものですね。C以上が有れば優秀と言われていますね」

「なるほどな」


 その後直人たちは色々とアランから話を聞いた。


 アランと話して色々な事が分かった。直人たちがいるのがジュラ―ル王国の辺境にあるアンネ大森林であること。アラン達はこの近くの城郭都市リカルダで、冒険者をやっているという事だ。


 直人たちの都合のいいことに、その都市では現在、ここら一帯の魔物を討伐するための冒険者の募集が、大々的に行われているということだった。


この後アランたちは、消耗品の補充のために一時帰還するとのことだ。直人たちはそれに、同行させてもらう事となった。


 それから道中、魔物達との戦闘が数度あり、その度アラン君達は驚きの声をあげていた。それに調子に乗ったテルが、ギフトを使って「残像だ!」などと言って、盛り上がったりしていた。ただ、そんな中でもカイだけは冷静で、


「直人、次のレベルまであと少しだぞ」


などと言うのだった。

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