第5話 棍棒2本で二刀流だろ!

 色々と試した結果、五つの事が分かった。一つ、魔法を使うには魔法名を知らなければならないこと。二つ、魔法名を連想することによって、頭の中にパズルゲームが浮かんできて、課題をクリアする事で魔法が発動する。三つ、使う魔法の難易度によって、課題の難易度も変わるようだ。四つ、賢さにより使用する魔法の数や威力に差が生まれるようだ。五つ、属性には派生があって、火属性に爆発属性、水属性に氷属性、風属性に雷属性、土属性に木属性となっているようだ。


 魔法を試しているうちにテルも戻ってきており、魔法を試し終わった直人たちは街を目指して出発した。


 地球の歴史上、川沿いに街などが栄えることが多いとされる。そのため、異世界もそうであろうと考え、直人たちは川の流れに沿って歩いている。


 そんなわけで暫く歩いていると、突然、直人の前を歩いていたカイは足を止め森の方を見ながら低く鋭い声で直人たちに言う


「何か近づいてくる、隠れろ」


 木の陰に隠れ辺りをうかがうと、茂みからゴブリンが出てくる。その総数4体。


「数は4、テル鑑定してくれ」


 カイに言われテルは自分のスキルを思い出したように頷く。


「ゴブリンっスね、Lv4が2、Lv3が2、ステータスは大したことないっスね」

「OK、俺が突っ込む、テルは石で援護、直人はヤバくなったら魔法を頼む極力MPは温存する」

「「了解!(ッス!)」」


 その声を合図にしてカイは木の陰から飛び出し駆ける。それに驚いたゴブリンとの距離を一気に詰め、棍棒を大きく振り上げると、ゴブリンの頭を狙って叩きつける。振るった棍棒は頭にめり込み、ゴブリンはその場に倒れた。


 襲撃者にゴブリン達が身構える。しかし、仲間が一撃の元に倒された事で動揺し動きは鈍い。そこにテルの投げた石が一匹のゴブリンに命中し、命中したゴブリンは痛みに頭を押さえうずくまる。残りのゴブリンは何所からの攻撃か解らず、見渡しはじめた。


 そしてその瞬間を見逃すカイではなかった。注意のそれたもう一匹のゴブリンを攻撃し、一撃のもとに倒す。仲間が更に倒された事により一匹のゴブリンは恐怖するではなく、激怒してカイに襲い掛かった。ゴブリンの棍棒の攻撃をあっさりと捌き、体勢を崩したゴブリンを一撃で沈めた。自分以外がやられ一人となったゴブリンは逃げ出そうとするが、テルが足へ投石して転ばせる。その隙をカイが見逃すはずもなく棍棒が振り下ろされた。


 戦いが終わり、直人は戦利品を物色しているカイの方に近づき声を掛ける。


「おつかれ~怪我は無いか?」

「問題ない。所詮ゴブリンだな、大したことなかったな」

「さすがカイ先輩っスね! やっぱ頼りになるッスね!」

「そうだな。結局俺の出番はなかったしな」

「今のところは、MPを無駄にはできないからな。そういう意味ではお前の出番がないに越したことはないんだ」

「確かにな」


 物色が終わったのか、カイは振り向き直人にナイフと棍棒を渡してきた。直人が物言いたげな顔をすると


「素手よりましだろ、持っとけ」


 渡されたナイフを見てみる。見るからに手入れの行き届いてない物だとわかった。無いよりはまぁしかと直人は思った。


「テルはこれ持ってろ」


 テルに渡されたのは棍棒2本だった。テルは嫌そうな顔をしながら


「え、俺棍棒2本ッスか!?」


 カイはこいつ何を言ってんだ、というような顔をして


「お前アビリティ二刀流だろ。棍棒2本で二刀流だろ!」

「そッそうっスけど俺の考えてた二刀流と違うっス! 棍棒の二刀流なんて聞いたことないッス!」

「聞いたことなくても仕方ないだろ、それしかねーんだから」

「そ、そうっスね」


と言いながら、棍棒を見つめる。しばらくすると頷いて納得してないが、納得したようだった。


「テルこれを鑑定してくれ」


と言い、カイは戦利品のいくつかをテルに渡した。テルは幾つかのコインを手に取り


「これはお金っスね! 小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨っスね! こっちのは薬草っス!」

「硬貨は直人持っててくれ薬草は3人で分けよう」


 分配を終えた直人たちはふたたび進み始めた。


 しばらく歩いてると「ゴブゥゥー」と言う雄たけびと共に、森から3匹のゴブリンが飛び出してくる。


 いち早く反応したのはカイだった。「チッ」と舌打ちをし、直人を庇うようにゴブリンと直人の間に割って入り追撃する、ゴブリンが振り下ろす棍棒とカイが薙ぎ払った棍棒がカンッ音を立てぶつかり合うとカイはそのまま力ずくで振り抜きゴブリンを吹き飛ばし、迫り来るもう一体のゴブリンを迎え撃つ。敵の攻撃を受け止め、はねのけた。ゴブリンは奇襲に失敗し距離をとった。


「助かったぜカイ」


 カイはあたりを見渡し


「まずいな、囲まれた」


 周りを見ると前方に3匹、後方に2匹、先ほどの側面の森から出てきた3匹、計8匹。


「多いな」


 カイは敵の方を見たまま


「テル無事か?」

「何とか無事っス」

「無事ならOKだ。俺とテルでゴブリンを抑えるから直人は魔法で攻撃を頼むぜ」

「温存しないでいいんだな?」

「あぁ、出し惜しみできる状況じゃないからな」

「了解だ、じゃ一気に行かせてもらうぜ!」


 直人は手をかざし魔法を放つ。


「ファイヤーボール」


 手のひらに現れたファイアーボールが打ち出され、ゴブリンへ直撃し一気に燃え上がる。近くにいたゴブリンたちは炎から放たれた熱波に巻き込まれてもがき苦しみ、それ以外のゴブリンたちは燃え上がる仲間をみて唖然としている。


 「ゴブゥゥゥ」と言う悲鳴が聞こえ、そちらを見るとカイが既に1匹倒していた。そしてカイは叫ぶ。


「よそ見してんじゃねぇぞゴブリン共ッ!!」


 カイに3匹のゴブリンが襲い掛かる。3匹と戦っていると背後から4匹のゴブリンがカイに襲い掛かろうとしている。直人はそのゴブリンにファイヤーアローを放つ。


「ファイヤーアロー」


 三本の炎の矢がゴブリンに突き刺さり倒れた。


「助かったぜ直人!」


 カイが3匹と戦いながらそう言うのをみて、こいつ余裕あるな、などと思っていると


「ちょッちょッちょっとタイムっス! うわッ危ないッス!」


 そちらに視線をやると、テルがゴブリン2匹に防戦一方な展開。いや正確にはゴブリンの攻撃を必死で避けている、そんな感じだ。


 直人はテルを援護しようとして考えるファイヤーボール? いやテルとゴブリンの距離が近すぎる、テルを火傷させる可能性が高い。じゃあファイヤーアローは? ダメだテルを誤射するビジョンが浮かぶ。そうだあれだ!


「ウィンドボール」


 手の平には風のボールが現れる。直人はそれをゴブリンへと放つ、放たれたウィンドボールはゴブリンに当たると風の爆発と言っていいだろう、その爆発はゴブリンを吹っ飛ばした! 何が起きたのか分からず唖然としていたテルも状況が掴めてきたのかこちらを振り向き


「先輩ありがとうっス、助かっ――」

「テル避けろ!」


 テルが振り返ったと同時に棍棒がテルの頭に当たる。当たった瞬間その少し横にもう一人のテルがいた! 殴られたテルは消え攻撃を空振りしたゴブリンは大きく体勢を崩す。(なんだ今のは!!……今のが因果回避なのか!?)状況が分からず戸惑っているテル。


「テル今だ!」


 直人の声に気づきゴブリンに攻撃するテル。攻撃はゴブリンに当たったが浅かったのか倒せてはいない。直人は先ほど吹き飛ばしたゴブリンが起き上がろうとしているのに気づきファイヤーアローで倒した。直人がテルの方を見るとテルの足元にゴブリンが倒れている。


「そっちも終わったみたいだな」


 直人に声を掛けてきたのはカイだった。


「まぁ、なんとかな。そっちは3匹相手なのにもう終わったのか?」

「おぅ終わったぜ! 所詮ゴブリンだからな」


 余裕の表情でそう言うカイを見て、直人は苦笑いを浮かべ、


「そいつは頼もしいことだ」


 それを聞いたカイは呆れた顔をし、


「何言ってんだ直人、エリュシオン最強コンビの俺とお前がいるんだ、俺達のレベルが低くても所詮ゴブリンだろ」


 エリュシオンとは直人たちがやっていた体感型MMORPGの事だ。20XX年に突如として現れた株式会社エンジェルが生み出した新技術を用いた体感型MMORPGエリュシオン。体感型とはその名の通り、そのゲームの世界のキャラクターに憑依したような体験ができる。それは世界に新たな扉を開いてくれるた、画期的なシステムだった。ゲームは瞬く間に売上ランキングを駆け上り、同時接続数に至っては1000万人を優に超えたゲームである。


「似てるっては言ってたけど、ゲームとこの世界は別物だろう?」

「そうか!? テルどう思う?」


 直人たちが話している間に近づいて来たテルに話を振るカイ。


「えっ何の話っスか?」

「エリュシオンにこの世界が似てないかって話だ」

「そっスか? ゴブリンこんなに気持ち悪くなかったし臭くも無かったスよ?」


 テルの的外れな回答に突っ込みを入れるカイ。


「いや、そうゆう事じゃねよ!戦闘に関しての話だ、思った通りに動く高性能な体、レベルを上げていけばエリュシオンと同じ動きも再現出来るだろう。魔法に関しては詠唱法と魔法名が同じようだしな」


 カイの話にテルは納得したのか、


「言われてみれば、そうっスね……そうかもしれないっス」


 カイはさらに話を続ける。


「この世界は似ていると言うよりもシステムがまんまエリュシオンなんだよな」


(確かにシステムがそのまんまエリュシオンだな)と直人が納得しているとカイが直人の肩を2回叩き、


「そういう事だ、頼りにしてるぜ三重詠唱者」


 4年前直人はギルドを抜ける時にカイと大喧嘩して以来、カイは会うたび度に直人につらく当たって来た。嫌われたと思っていた直人にはその言葉があまりに予想外で驚き複雑な思いがこみあげてくる。カイはそんな直人を知ってか知らずか振り返り


「戦利品頂いて先を急ごうぜ」

「・・・あぁ」


 直人は驚きから立ち直れて居らず気の無い返事をしてしまう。


「了解っス!にひひひ」


 変な笑い方をしながらテルは直人をニヤニヤと見ている


「何ニヤニヤしてんだ!?」

「昔みたいに先輩達が仲良しで嬉しいっスよ!」


 直人は照れ臭くなり


「言ってろ」


と言い戦利品をあさりに行くのだった。

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