第4話 勇者は俺ではなく親友の様だ。

 それから5分くらい経過しただろうか。地面から魔法陣が浮かび上がり、魔法陣が消えるとそこにはカイが立っていた。赤髪で目つきが鋭く、体格はいいが均整がとれているからかスラリとした印象だ。カイは直人を見て驚いた表情をしている。そんなカイに直人は話かける。


「よ、久しぶり」

「おっお前生きてんの?  死んだんじゃないのか?」

「まぁ色々あってな、話すと長くなるんだけど」


 直人たちはカイに今までのいきさつを話す。


 話を聞き終えたカイは怒半分呆れ半分といった感じで直人に言った。


「ゲームに似た世界に転移ってお前何やってんの!?」


 そのキツイ言い方が直人には怒ってるように思え尋ねる。


「え、何でお前怒ってんの?」

「べ、別に怒ってねえよ」


 暫く沈黙が続きそれに耐えきれなかったテルが沈黙を破った。


「と、とりあえずステータス見てみたらどうっスか? ステータスオープンで見れるッスよ!」

「ステータスオープン」


 カイがそう言うと目の前に画面が現れ、それを見て驚いているようだった。カイは画面を見ながら頷いている。


「よくわからんが強そうだな」

「マジっスか! 見てもいいっスか?」

「別にいいぞ」


 それを聞きテルはカイの方へ喜びながら


「見るッス見るッス!」


と言いながら近づいていく。テルはカイのステータスを覗き込み目を大きく見開き


「ありえないッス、チートッス!」


気になった直人はカイに近づき


「俺も見ていいか?」

「あぁいいぞ」


 直人はカイのステータス画面を覗き込む。



ステータス

名前:海馬正樹

種族:人間

性別:男

年齢:28歳

職業:勇者

称号:異世界より召喚されし者


Lv1

HP :S

MP :B

攻撃力 :S+

防御力 :S⁻

素早さ :S

器用さ :S

賢さ :B

運 :A+

能力 :魔法(火、風、治療、光)

アビリティ:火属性魔法Lv10 風属性魔法Lv10 治療魔法Lv10 光属性魔法Lv10 剣術Lv10 槍Lv5 弓Lv5 格闘Lv5 盾Lv5 

ギフト :英雄の奇跡Lv1



(強すぎるだろ!)

「す、すごいな」

「すごいなんてもんじゃないッス! これどう見てもチートッス! 完全に主人公ッスよ! 羨ましいッス!」

「これって凄いのか?」


 カイはいまいち実感がわかないようだ。


「お前たちのステータスはどんな感じなんだ?見せてくれよ」


 直人たちはステータスを開きカイに見せる。


「これはつえーは、確かに。」


 カイはステータスを見て納得したようだった。


「それで、これからどうするっスか?」

「二人とも協力してくれるって事でいいのか?」

「俺は手伝うっスよ! 時給も貰えるんだし、また先輩と冒険できるんっスね!嬉しいッス!」

「そっか、ありがとう。カイはどうする?」

「お前達よえーからな、俺が居ないと死にそうだからな。いいぜ、手伝ってやるよ」

「あはは、よろしく頼む」

「で、これからどうするんだ直人」

「とりあえず街に行くかな?」

「いいっスね! お腹すいたし、街行って何か食べたいっス!」

「まてまて、街もいいがとりあえずレベリングだろ? 流石にLv1はないだろ」


 異世界に来てレベリングを最初に考えるカイ。流石は廃人である。


「いやいや、まずは拠点だろ? 街に行くべきだろ」


と直人が反論するとテルもそれに続く。


「そうっス! そうっス! 寝るところと、食べ物は必要ッス!」

「違うだろ! 大事なのはレベルだろ! そもそも、街ってどこにあるんだよ!?」


 カイがそう尋ねるとテルは直人の方を見て


「街ってどこっスか?」


と尋ねてくる。それに対して直人は大げさに首を傾げ答える


「さぁ~?」


 カイは呆れた様子で溜息をつき話し始めた。


「街を目指す、街がすぐ見つからなかった時のために食料を確保しながら進む、これでいいか?」

「OKだ」

「問題ないッス」


 直人たちの返事を確認すると、カイは話を続ける。


「それと、装備の確認をしておきたいんだが何があるんだ?」

「棍棒だけだ」

「これだけか?」

「これだけだ」

「布の服と、靴と、棍棒だけか……森の中スタートの初期装備か、結構ハードだな。この棍棒俺が使っていいか?」

「確かにな、前衛のお前が持つ方がいいだろ、よろしく頼む」

「あぁまかしとけ。それで直人は後衛で、テルは前衛ってことだよな?」

「魔導士だから後衛だろうな」

「……俺武器持ってないんっスけど」


 テルに尋ねられて、カイは一瞬考えると、


「テルは投瓔スキル持ってたな、手頃な石を集めとけ」

「石ッスか!? 石で前衛なんっスか?」


 テルのその言葉にはありえないというニュアンスが含まれており、その言葉にトゲがあるように感じたため、カイはテルを睨みつけ言った。


「無いから仕方ないだろ」

「……了解っす」


 テルは浮かない顔をして小川に石を探しに行った。


「直人は何の魔法が使えるんだ?」

「さぁ、何が使えるだろうね? とりあえず試してみるか!?」

「そうだな、手札は正しく把握しておくべきだろうな」


といいニヤッとほほ笑み、続ける


「窮地であの時やっていればと後悔はしたくないだろう!?」


 直人とカイは魔法を試す事にした。


 最初に試したのは直人だった。直人は小川の方に手をかざし唱えた。


「ファイヤートルネード」


 だが何も起きなかった。訪れる沈黙、それを破ったのはカイだった。


「ぷぷっ」


 カイは口を押さえ笑いを堪えていた。それ見て直人の顔は見る見るうちに赤くなっていく。その恥ずかしさに耐えきれなくて直人は口を開いた。


「真面目にやってんだよ! それを笑うって人としてどうかと思うよ」

「わりぃわりぃ、でもよ大の大人がよう真顔で唱えて何も起きないって、いや笑うよな?笑うだろ!?」


 問いかけて問い返された直人はいじけそして開き直った


「いいさ、いいさ、笑いたければ笑え!カイお前は知ることになるだろう、失敗とはな~……成功の基という事をな」


 そう言い再び魔法を唱えようとするとカイが声をかけた。


「なあ、直人」


 直人はカイに呼ばれ振り返る。


「なんだ!」

「この世界はエリュシオンに酷似した世界なんだよな?思うんだがエリュシオンでレベル1がファイヤートルネードを使えたか!?」


 カイの言いたい事に気づき


「あっ! 先ほどの失敗した段階で気づいているさ」


 明らかに今気づいた表情からのドヤ顔での気づいている発言にカイは呆れる共にそこまで追い込まれたのかと思うと同情し話を合わせるカイ。


「そうか、中断して悪かったな続けてくれ」


 直人は小川の方に手をかざした、その表情はかつてない程に真剣なものだった。直人はこの時、精神的に追い込まれていた。次に失敗したらどんな顔をすればいい、何を話せばいいんだ、直人にはカイの目を見る自信がなかったのだ。もう直人には後がなく、次の失敗は許されないのだ。その状況が直人にかつてない程の真剣な表情をさせていたのだった。

直人は覚悟を決め唱える。


「ファイヤーボール」


 唱えると直人のかざした手の先に綺麗な球体でその大きさはサッカーボール程あり、その中には押し込められた炎達が行き場を求めて渦巻いている。


 その炎は小川に向けて放たれた。物凄い速さで激突すると爆発し大きな水しぶきが上がった。


 魔法を成功させた直人はカイの方に振り向き、見たか! 二度も同じ失敗はしないのだ! と言いたげな表情をしていた。カイも魔法の成功に喜んでいたが、次の瞬間焦った表情に変わっていった。


「……バカ! お前ッ!」


 カイがそう言うのと同時にそれは起きた。ポタポタと降りそそぎ始め、それは勢いを増してザーっと降りそそぐ。すると直人とカイは、あっつ、あちっと言いながらもがき始めた。


 降りそそいだ物はファイアーボールの爆発によって吹き上がった沸騰した水で、それが雨のように降りそそいだのだった。降りそそぎ終わり一息つくと、カイは口を開いた。


「ちょっと待ってめちゃ熱かったぞ、そもそも何故水の中に撃ったんだ?」


 直人は苦笑いを浮かべ


「いや~水の中なら火事になる心配ないかなぁと思ってさ、あははは」


 その答えにカイは呆れた様な表情をし


「……以後小川に魔法打ち込むの禁止な。次は俺が試してみるな」


 それからも直人とカイは魔法を試し続けた。

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