第十四幕 群狼(パック)
しばらく四人で歩いていると村の別の出口にたどり着いた。
門の前には見知らぬ三人が待っていた。
三人の近くには五台の鉄馬があり、二人は立っていたが一人は鉄馬に寄りかかって何か話していた。
「すまない諸君。」
ヨーゼフはその三人に声を掛けた。
「おお、ヨーゼフか遅かったな。」
「ああ、すまない弾丸の買い足しに遅れてしまった。それと・・・。」
ヨーゼフはアニマと自分に視線をやった。
「この子たちが今回の狩りに加わることになった。アニマとネモだ。二人は狩りが初めてだ。」
「よろしく。」
「よろしく頼む。」
「よろ。」
他の三人は各々簡単に挨拶した。
三人は年が中年だったり、自分と変わらなかったり、ヘッツェナウアーと同じくらい年だったり年齢に統一性はない。
本当に行き当たりばったりで出会ったのだと分かった。
服装も自分やヨーゼフと同じような服装をしていた。
アニマも自分もその三人に簡単に挨拶した。
「うぃ~。みんなお待たせ。」
ヘッツェナウアーも三人に遅れたことを軽く謝った。
「よし、全員が集まったな。出発するとしようか。」
全員鉄馬に跨り、鉄馬を起動させた。
自分もアニマを後ろに乗せて、鉄馬を起動させた。
鉄馬は一斉に唸りを上げて村から走り出した。
一分ほど精霊灯を付けて走っていた。
走っている列は前にヘッツェナウアーともう一人と真ん中にはヨーゼフと自分とアニマがいて、最後尾は残りの二人と三列で走らせていた。
「どうだネモ初めての狩りは?」
隣にいたヨーゼフが話しかけてきた。
「まだ悪魔に会ってないから分からない。」
「確かにそうだな。そうだ一つ覚えておくといい。私たち渡り狼は狩りをする時にその場にいる他の狼と一緒に組んで狩りをすることが多い。
その時狩りに行く集団を私たちはパックと呼んでいる。もし他の町で他の渡り狼たちと狩りをする時があったらパックを組もうと言えば大体通じえる。」
「そうなのか分かったよ。」
ヨーゼフはそう言うと自分から横に離れた。
すると前からヘッツェナウアーが向きを維持しながら後ろに下がって自分の横につけてきた。
「どうだ~ネモ。初めての狩りはビクッてチビっちゃいねぇよなぁ。お前にナニはついちゃいないからチビらねぇか!はっはっはっ!」
「うるせぇよ。ビビッてなんかいねぇよ。あんたはいいのかよ。前見てなくて。」
「大丈夫に決まってんだろ。何年俺が渡り狼やってると思ってんだ。眠っても運転できらぁ。」
ヘッツェナウアーは自分の言葉を笑い飛ばした。
「それよりネモ。お前はアニマちゃんを乗せてんだ。大事に運べよ。落っことして怪我でもさせたら承知しねぇからな。」
「誰がそんなことするかよ!」
「アニマちゃん。もしこいつの運転が怖いと思ったらいつでも俺に声を掛けてくれよ。俺の後ろはいつでも空いてるぜ。」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。」
アニマは微笑んで返すとヘッツェナウアーは片手をあげて前列に戻っていった。
ヘッツェナウアーにつられて前に視線をやると目の前は森の口を開けていた。
中は木々に覆われており、その中を縫うように移動した。
途中不思議に思ったのは他のみんなは精霊灯を消していた。
するとヨーゼフが横につけてきた。
「アニマ。そろそろ精霊灯を消すんだ。」
「危なくないか?」
「そうだな。だが悪魔が寄らなくなる。それでは狩りにならない。」
「分かったよ。アニマお願いできるか?」
「はい、分かりました。」
アニマは精霊灯にいた自分の精霊を自分の体に戻した。
すると精霊灯の灯りは消えて暗闇に包まれた。
しばらく目の前に注意しながら走っていた。
視界は木々の間から少しだけ漏れている星灯りだけが頼りだった。
「怖いかね。」
横に走っていたヨーゼフが話しかけてきた。
「もちろん。こんな暗い道を走ったことないからな。」
前を見るので精いっぱいだったのでヨーゼフを見ずに答えた。
「確かに灯りに慣れた私たちにとって暗闇は恐怖そのものだ。だが渡り狼の狩りにおいて必要なことは暗闇に目を向けることだ。灯りに照らされた目に見える道だけを頼りにせず、この暗闇に順応するんだ。暗闇に目を凝らしてこの暗闇の一部になれば遠い森の木の揺れや風で何か起こった時に灯りで見るよりも鋭く感じ取れるようになる。」
「それは難しいな。」
「少しずつ慣れていけばいい。」
そう言うとヨーゼフは再び自分と距離を離し、元の距離を保って走った。
「見つけたぞ!」
前にいるヘッツェナウアーが突然声を上げた。
「よし、広がれ!」
ヨーゼフの号令で他のみんなは横に距離を広げていった。
自分も木々を避けながら横に広がった。
目の前に目をやるとヘッツェナウアーが斜め前にいた。
さらに目を森の奥に向けると巨大な黒い影がいた。
「アニマ。準備は出来てるかい?」
「ええ。大丈夫です。」
後ろで小さい金属音がした。アニマが鞄から精霊銃を取り出したのだろう。
自分はアニマの精霊銃の射線に入らないように上体を屈めた。
他のみんなも肩に下げた銃を片手に持って臨戦態勢に入っていた。
奥のいる黒い影の中に無数の光のようなものがあった。
それは目だ。
悪魔は自分たちの存在に気が付いた。
全員に緊張が張り詰めていく。
意識が目の前の悪魔にだけ集中していく。
悪魔はそこから動かずじっとこちらを見つめていた。
互いの距離が縮まっていく。
「諸君、狩りを始めよう。」
横から落ち着いた口調でヨーゼフが喋った。
化け物もそれに呼応して森を震わすほどの雄たけびをあげた。
渡り狼と悪魔の狩りが今始まる。
第十四幕 群狼(パック) 完
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