第26話-お互い様

『!…起こしちゃった?』


不意に発せられた声に、びくりと身体が跳ねたのは無理もない。寝ていると思っていた相手が喋れば、ドキリとするものだ。


「手、そのまま撫でてて。すごく冷えてて気持ち良いから」


『あ、…うん。』



ドキドキする鼓動を無視して、ワックスの付いていない髪をそっと撫で続けた。


なんか…変な感じ。


弱っているせいもあるのか、りとが年相応…というより、子供に見える。不思議な感覚。



いつも、素のりとはだらしない面を見せるけれど時折見せる、頼りになる姿を見ているから『かわいい』なんて思った事はなかった。


それもこれも、熱で潤む瞳と朱色に染まる顔のせい



『りと、せっかく起きたしゼリー食べる?』


「…ん」


『あっ、待って、起きるの手伝うから』




もぞもぞと布団の中で動こうとする、りと

しかし直ぐに起き上がる事が出来ず、顰めっ面になった姿に頬が緩んでしまったのは仕方ない。


それを誤魔化すように、りとの身体を支えて起こせば…


「なんかいいな…こういうの」


独白めいた事をりとが呟いていた。


主語がなく、何に対しての『いいな』なのか考え、思い至った答えはとてもシンプルなもので、



りとは配信者で、サイトで活動していて。

沢山の動画を上げたりしているから、まともに休めたのはきっと久々で。


だから、たまにはゆっくり休めるのもいいな。という意味なのだろう、と、1人納得し苦笑した。



『ほら、少しでも食べて薬飲んで、寝よ』


「あぁ、ありがとな」


『お礼なんていいって、お互い様だよ』


「…お互い様、か」



りとや佳名斗は一個上だからか、よく甘やかしてくれるし、いつも助けてくれる。


配信で上手く喋れない時はりとがフォローしてくれるし、何より、素のりともミラでのりとも優しくしてくれる。右も左も分からなかったオレに、


体質を隠してるオレに、


寄り添ってくれているのは、りとだから。


シェアハウスをメンバー全員でする、と話が出た時


オレは直ぐに却下した。


理由は体質のせい。

でも、それを言う気にはなれず苦し紛れな嘘をついた。きっとはたから見ても、その時発した言い訳は嘘だと分かるほどのもの。それを深く追及せず、




––––––じゃ、一緒に登校できる時はしよーな


そう発したりとの、真っ直ぐ過ぎる笑顔と言葉にオレは救われた。


嘘だらけのオレでもいい、


まるでそう言ってもらえた気がしたんだ。



『うん。オレに出来る事ならなんでも言ってよ』


特に深い意味は無かった。

りとは今、熱で弱ってて。身体がキツイから、手伝えることがあれば。と、思っただけで、



「なんでも、ね。


––––––––なら、1つだけ頼みたい事があるんだけど…いいか?」



だから、まさか…あんな事を頼まれるなんて、夢にも見ていなかった


口角だけ上げて笑むりとの顔はどこか…妖しい雰囲気を醸し出していた。


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