第25話-お見舞いと、温もり
小さく、息を吐く。
足に力を入れていないとその場にしゃがみ込みそうで、背もたれの様にして持たれ掛かったのは壁ではなく、ドアだった。
『…りと、起きてる?』
極力、足音を立てずに部屋へ入ったつもりだが、ベッドで寝てるりとが、ごそり、と動いた気がして恐る恐る声を掛けてみた。
『…寝てる、か』
そっと、りとを覗けば、眉間に皺を寄せたまま一定のリズムで寝息を立てながら寝ていて、
開眼していれば覗く、意志の強い瞳も閉眼しているせいか、普段に比べ、りとが幼く見えた。
というか…きついのかな、やっぱり
りとが風邪なんて珍しい。
『あ、…ゼリー、どうしよ』
不意に思い出すのは、ここに来る前に買ったゼリー。と、ついさっきの佳名斗。
熱がこもった、あの真剣な眼。
身体の芯が痺れるように、甘く、熱く、電流が走って、ぞわっとした。
オレの知らない顔をした、佳名斗
男の匂いが…した。
『っ、』
かぁ、っと頬に集まる熱。
それを誤魔化す様に、佳名斗から貰ったマスクを上に引き上げた。
《なーんてね!あっはは、じょぉーだんだよぉ》
《…え、?》
《ちょっと意地悪したくなっただーけ。ドキっとしたぁ?》
にひっと、笑みを浮かべ離れる身体と温かな温もり
近すぎた距離から解放された安堵と…不安。
オレを映していた佳名斗の瞳が揺れていて、
まるで何かの狭間に居るような、そんな錯覚を掻き立てられた。
《かな、》
《さてとっ!りとの見舞い、だったねぇ。先に部屋行ってな?ほらっ、マスク付けて》
言われるがまま、されるまま佳名斗にマスクを付けてもらい、気付いたらりとの部屋。
佳名斗はりとの食事を作る、と言いながらキッチンへ戻っていき、暗い部屋の中にはオレと寝ているりとだけ。
『りとが熱出すなんて、…珍しい』
「ん…、」
普段はワックスで箇所箇所、外跳ねにしている髪の毛も今は下ろしていて。
ぐったりしたりとを見て不謹慎かも知れないが、可愛いと思えた。いつも周りの空気を読むのが上手いりとは、配信者としての意識が強く。
外に出ればミラのりとの顔になる。
笑顔で何事にもスマートに対応してしまうりとは、オレたちが知っているズボラならりととはかなりかけ離れていて、たまにオレの知ってるりとは実は別人なんじゃ…
なんて事を本気で思った事があった。だからかな、
弱っているりとはレアで、
そして普段緩い口調の佳名斗の真剣な顔も、激レアで。頭の片隅についさっきの出来事を追いやりたくて、無心になりたくて、
勝手に熱くなる頬の熱を誤魔化すように、りとの髪の毛をひたすら撫で続けていた。
「…摩擦が凄いんだが、」
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