第23話-抱いてる気持ちが何か分かる?


カードキーを差し込むと、電子音が鳴り佳名斗がドアを開けてくれた。


「ちょっと散らかしてるけど、入って入って」


『おじゃまします…って、相変わらず広いね』




視野に入ったのは車一台分通れる廊下と、シンプルな作りのシューズボックス。


フローリングの色に合う、黒色のボックスはシンプルにも関わらずお洒落さが滲み出ていた。



「そーいやぁ、誠っちが家くんのいつぶりだっけ」


『えー…?そんなに前だったかな』


「1000年くらい前じゃない〜?」


『いや、待ってそんなに生きてないから』



靴を脱ぎ、揃えて上がりながら話す内容は当たり障りがないもので、


少し前を歩いている佳名斗はケラケラと笑っていて、普段通りだ。まるで、…ついさっきの真剣な顔が嘘だったみたいに。




“オレのこと好き?”


そう佳名斗に聞かれた時、無意識にも息を飲んだ。


オレは皆の事が大切で、オレの居場所で、


かけがえの無い存在。


でも直ぐに即答できなかったのは…、




オレが皆に隠し事をしているから、だ。


だからこそ『好き』なんて口には出来なかった。




オレの体質のこと、オレのこと。


全部内緒にして壁を作ってる自分が、その言葉を言ってはいけない様な…そんな気がした。



「取り敢えずリビングに荷物置きなよ〜。てか、アイツはちゃんと飯食ったかねぇ。


あ、誠っちリンゴジュースでよき?」




開けた部屋に入り、真っ先に佳名斗が向かった場所はキッチンで、慣れた手つきで冷蔵庫を開けてパックのジュースを取り出した。


『水でもいーのに』


「そんなん言って水道水注いだら嫌っしょ〜?」


『……確かに』



はい、どーぞ。と、渡されたキャラクターのコップ


その中には並々とリンゴジュースが注がれていて、ほのかに香る匂いにホッと息を溢した。


「ほらほら、座んな。こっちおいで」


ぽんぽん、と佳名斗は腰を下ろしたソファーの横を叩く。


『あ、うん』


「折角だから、ゆっくりしなよ。あと、りとの部屋行く時はこれ付けてってね。移ったら困るし」


『おー、準備いいね』




目の前にある木製の机に置いてあった未開封の袋


言わずもがなマスクが中には数枚入っていた。


「まぁね。念には念を、だよ。

んでも誠っちが風邪引いたら、オレが貰ってあげる」


『オレそんなに風邪ひかないよ?』


「それってアレじゃない?風邪引いても気づいてない的な」


『いやいや、普通に気付くわ」





どんだけ佳名斗の中でオレはアホ認定されているのか


…いや、知りたくなんて無い。


だって絶対、佳名斗の中で『アホの代表=オレ』みたくなっていそうなんだもん。それはそれで…解せぬ



「誠はね、自分が思ってる以上に鈍いよ」


『まだ言うか。オレは鈍くなんて、』


「じゃあオレが、」




と、そこで言葉をとぎり佳名斗は押し黙ってしまい


それが余りにも不自然で、そっと佳名斗を見やれば…。


『…か…なと?』


切羽詰まったような、そんななんとも表現しにくい表情をしていて。形の良い唇が何かを紡ぐ前に、ぎゅっと閉ざされた。


下唇を噛むような、そんな仕草。


動揺、焦燥、不安、


言の音を発する代わりにそっと、触れられたオレの…




唇。


なぞる様に這う指に、ぞくぞくとした感覚が下から上へと駆け上がってゆく。


『っ…ん』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る