第19話-個性は自由の象徴



朝のHRが終わり、授業へと入った。

1限目は古典。

日本語のような英語の様な発音を聞きながら、そっと後ろへと視線を向ければ、いつもの見慣れた人物が今は居なくて、


空席。


もともと背が高く、座っていてもオレよりも頭が一個分以上飛び抜けている大賀の存在は大きく、


最初は威圧感すら感じていた。


でも、いつからだっけ。威圧感だと思わなくなったのは


いつからだっけ、後ろにいるって思うと安心するようになったのは




大賀がいないとちょっとだけ寂しい、なんて子供っぽいことを思いながら、


再度前へと視線を移し、黒板に書かれてゆく文字を慌ててノートへと書き写す。梅雨が来て、直ぐに夏が来る。夏休みに入る前に待ち構えているのは、学生にとって強敵とも言えるあれだ。


そう、テストがやってくる。


なにが悲しくてあんな罠という名の引っ掛け問題を解かないといけないのか、


考えるだけでゾッとする。小学校の時は、どんなにテストの点が悪くても、名前の字が綺麗に書けたら褒めてもらえたのだが


それは高校生で通用しない。




いや、もしかしたら全教科1桁取ったら…


教師も同情して、書いた名前の字に点数を付けてくれるかもしない。が、それを率先して試す気は更々無かった。何故なら、


再試は1教科に付き5000円。


え?500円じゃないの?と、耳を疑ったのは、入学して直ぐだった。


この学校のモットー、というか掲げている言葉。


それが《個性は自由の象徴であり、勤勉は糧になる》だ。まぁ、要するに勉強にそこそこ力を入れている学校なのだが、


個性も育ててくれる所でもある。



じゃなかったら、オレたちは今活動出来ていない。

学校によっては勉強時間が減るから、という理由で携帯やパソコンを触る時間を1日、何時間まで。というように制限している所もある、と


ちょっと前に耳にした。


成績重視の学校か、

個性を伸ばす学校、


どっちがいいのかなんて、オレには分からないけど


きっと親からしたら、しっかりした未来のある夢を追って欲しいはずだ。人気が出るのか分からない夢


いつ飽きられるのかも目に見えない仕事、


足場がしっかりある夢を目標に、勉学に励んだ方が確実。でも、オレは…



もう出会ってしまったから


りとに

佳名斗に

大賀。大切だと思える存在に。


確かに先の見えない夢は不安で怖い、



何が正しくて、何が間違いなのか。

駆け出したばかりのオレたちは手探り状態だけど、


間違えてもいい。失敗してもいい。

また何度でもやり直そうって、思えるメンバーがいる


仲間であり、最高のライバル





(…早く大賀、来ないかな。…佳名斗と大賀でりとの所行けばいーよね)


学校に来ていない二人の顔を思い出し、ゆるむ顔

それを誤魔化す様に、ノートへと黒板の字を綴ってゆく。





––––––…けれど、放課後になっても大賀が学校へ来る事はなかった。

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