第15話-オレたち最強ってこと?

「はぁああああ。誠きゅんって天然タラシよねぇ」



うっとりとした顔で、ポツリと呟いたのはマネージャーで、頬を朱色に染め、隠すように頬へ手を当てていた。


「タラシ…、誠が、ですか?」


「んっふふ、無自覚のね。私、誠きゅんに会う度メロメロになっちゃうのよぉ」


「もーうっ、雪ちゃんったらウチの大事な末っ子狙うの止めてよねぇ」




思わず聞き返したオレに、マネージャーは意味あり気に笑う。


その笑みはどこか、毒を含んでいる様な。そんな危うさが感じられ自然と眉が寄った。


無自覚の天然タラシ、か


思わず内心呟いた自分を余所に、佳名斗は頬を膨らまし、マネージャーを軽く睨んでいて、



まるで猫が毛並みを逆立てているみたいに。



「うふふふっ、あんたたち本当に仲いいのねぇ。ちょっと以外…って、違うわね、あの子がいるから成り立ってるのかしら?」


「んぇ?…どーいう意味〜?」


「ふふっ、本気でアンタは気付いてないのかしら」




頬杖をつき、目を細めたまま佳名斗からオレへと視線が移り、「ねぇ?」と、意味ありげに会話を振られ


わざとらしくならない程度に軽く、肩を竦めて見せた


「なんの事ですか?」


「あら、とぼけちゃって」


「とぼけてるつもりは無いんですけどね、」




「じゃあ、はっきり言ってあげてもいいのよぉ?誠きゅんがこのグループに居なかったら、グループとして機能していなかった、って」



にっこりと口角を上げて笑む、雪久マネージャー


一瞬、ほんの数秒、


オレたちの空気が凍り、しん、っと音が消えた瞬間で、


永遠にも続くかの様に思えたその時間は意外にも、大賀が破ってくれた。




「自覚してるっす」


「あら、そう?大賀ちゃんが自覚してて、リーダーさんは無自覚って事かしら」


大賀に向けられていた視線が、再度、オレへと向けられる。つぅっと、背中を伝う嫌な汗。


それを誤魔化す様に、苦笑した。




「ははっ。意地悪だなぁ、ウチのマネージャーは。自覚はしてます。…それなりに、ですけど」


「それなりに、ねぇ…それじゃあ、ダメなのよ。認識が甘いと、困るわ」



雪久マネージャーが誠を可愛がる理由、


それは、誠そのものが貴重な存在であり、



「貴方達3人で組ませても、音が強いだけの不協和音にしかならないのよ。声、歌い方、ブレスのタイミング、こぶし、しゃくり、ビブラート。


全員出来ても、個人差があって誠ちゃんは50人の中で歌わせても耳に入ってくる。貴方たちの音に消されないし、逆に言えば音を和らげる…って言うのかしらね


だから私はいつも思うのよ、ミラに必要な人材だってね」




そして、ミラの要だからだ。



「まっ、ちょっ、…ねぇえええ、なんの話し!?え、オレだけ理解できてないんだけどぉ?


つまり、オレたち最強ってこと?」



「……この空気でよくそれが言えたな」



ある意味、グループ内で最強なのは…佳名斗ではないだろうか、


と、本気で思う中、こめかみを指で押す。






「つまり、だな。マネージャーが言いたいのは、誠あってこそのミラだってことだろ」



「そうね、ウチの事務所にもかなりの件数問い合わせが来ててねぇ。引き抜きたい、なんて言われる始末よ。まぁ、取り敢えずこのまま4人で突っ走るつもりだから…


くれぐれもスキャンダルには気をつけてね。まさか、とは思うけど、恋人の影あり!なんて騒がれたら大変よ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る