第13話-新ジャンル



「で、今後の活動方針なんだけど、」


「あらやだっ!あたしを抜いて話し合いなんて白状よぉ」




唐突に降ってきた声に顔を上げれば、真っ赤なルージュを塗った唇が弧を描く。


座っていたオレらを覗き込む様に、腰を屈めたせいか猫っ毛な髪がオレの頬を撫でてゆく。



「ユキちゃん!おっそいよー」


見上げたオレはこちらを見ていたユキちゃん、正しくは雪久さんと視線が絡み、


「あらぁ、ごめんね?仕事が長引いちゃって。…にしても、会いたかったわぁあああああ誠きゅん!」


ユキちゃん、もといい雪久さんは佳名斗を華麗に受け流しながら満面の笑みを浮かべ、


オレを抱きしめた。




瞬間、石鹸の匂いが香る。


顔に当たる胸は豊満なものではなく、硬い胸板。


けれど身体を包む服はスーツ姿で、下は膝丈のスカートを履いている。そう、雪久さんは見た目…というか、服装は女性だが正真正銘の男。


この人がオレたちの––––––…マネージャー



「あぁん、癒されるぅ」


『ぐはっ…く、…くるし、』


「ユキさんが言うとR18の匂いしかしないんすけど」


「はぁああ!?あたしはね生きる社畜なのよぉ。誠きゅんを愛でて何が悪いのよ、失礼しちゃうわね」




やっと筋骨隆々の身体から解放されたのは、数分後


一通り落ち着いた頃、注文していたメニューが運ばれ、雪久さんは佳名斗の横。


つまり、今、目の前に雪久さんが座っている。



「まさかこれ、あたしが払うんじゃないでしょうね」


「さすが社畜。金は使うためにある、って。ユキちゃんが来なかったら自腹になるとこだったよー。だからね?ユキちゃんの事、待ってたよ」


「あ、…あ、…アンタが待ってたのはあたしじゃなくて財布じゃないのよぉおおお!!」




店内に響いたのは雪久さんの悲鳴じみた声だった。


佳名斗ってさり気に腹黒いんだよなぁ。


なんて、しみじみと感心しながら食べた月見うどんは、硬麺でとっても美味しくて、




皆で食べるご飯は…美味いなぁ、と


一人、内心で呟いた。





***


各々が頼んだ食事を終え、締めにデザートを注文したオレ達の前にかき氷やみたらし団子、パフェ、ムースなどが置かれ、


それを食べつつ、雪久さんへと視線を向けた。


「新ジャンルへの…挑戦?」


「そう!簡単に言っちゃうと、毎日のカレーは飽きるでしょ?そこで新しい事を取り入れてみたらどうかしら」


「んー…新ジャンルか。例えば佳奈斗に歌枠とか?」


「えぇえ。オレ、歌枠苦手ぇ」


「…誠は、一発ギャグとかか?」




「いやいや、…ちょっ、そこまで冒険しなくてもいいのよ!?誠ちゃんが一発ギャグって想像できないし。


まったく、仕方ないわねぇ。こういう時は、意外な所を見せたりするのが基本。所謂、ギャップ萌え大作戦!いい?女子はね意外な姿にキュンとか、頑張ってる姿に庇護欲っていうのかなぁ、そそられるのよ!


かっこいい!かわいい!守られたい、守りたい。って気持ちの事なんだけどね、」



身振り手振りで話す雪久さんは、表情がコロコロ変わり、呆れて肩を竦めて見せたり、腕を組んで得意げな顔をしてみたり、頬に手を添えて乙女の様な顔をする


そんな雪久さんを見ていたら、話の内容など頭に入る筈もなく。きっとメンバー全員が思ったであろう感想を、口にした。



『で、結局何したらいいの?』





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