第12話-出会いだって運


「誠だとこのまま飯、抜きそうだよな」


「あー!それそれ。もういいやー、とか言って食べなさそう」



りとと佳名斗が苦笑混じりに発した言葉は、ついさっきオレが思った考えを口にしていた。


…エスパー?いや、何で分かったんだろ


「そんなんだから誠っちはヒョロヒョロなんだよ〜」


「この中じゃ一番誠が線は細いよな」


「つーわけで、飯食え」




敢なく苺パフェは却下され、オレは頬を膨らます


苺パフェ…食べたかったのにぃいいい


がっくりと肩を落とし、再びメニュー表と睨めっこ


悩むな、というほうが難しい。

なんでこうもガッツリ系が多いのか、


牛丼、カレー、ハンバーグセット、天ぷら、スパゲティー、唐揚げ…などなど




明日はきっと胃もたれだ。


本気でそう思い、無意識にも明後日の方を向く。



「しっかり食わねぇと伸びねーぞぉ身長」


『3人が無駄にデカいんだよ』


骨張った手がくしゃり、とオレの頭を撫でてゆく

発せられた言葉は嫌味でしかなかったが、


りとの手は優し過ぎるくらいに温かい




『…月見うどん、食べる。あと牛乳珈琲で』


「あっははは!誠、たんじゅーん♪オレ、カルボナーラ食べよっかな」


「オレは無難にカレーかな。大賀は?」


「ペペロンチーノで」



意外にもあっさり決まり、近くにいた店員さんにりとが声を掛け、注文をしてくれた。


呼ばれた店員さんは、注文を取りながらも頬が朱色に染まり、チラチラとりとや佳名斗、大賀を見ていた


まるでコンサートに来たファンの様な反応に、知らず知らずメンバーはミラで見せる顔を作っていて



もはやプロ、


見習いたいなぁ、なんてもう何回思ったっけ。



「さて、と。今回マネさんに呼ばれてるわけだけど、用件はある程度、見当がついてる」


不意に口を開いたのは、注文が終わったりとだった


さりげにお手拭きや箸、スプーン、フォークをそれぞれに配っていて、



ここが合コンなら間違いなく参加者全員、恋に落ちているのだろう。


『用件…って?』


「んー、昼にちょこぉーっと話したんだけど今後の活動内容じゃないかな〜?」




ゆるい口調で、頬杖をついたまま発したのは佳名斗で、どこから話すか迷っているのか慎重に言葉を選びながら紡いでゆく。



「オレたち、多分今いい感じ…なんだよねぇ。ほら、新人歌い手としては結構注目を集めている方だと思うわけ。でも、それは“新人“だから注目されてるってのも、少なくないんじゃないかなぁ」


「そう。佳名斗の言う通り一理ある。で、悲しいかな新人歌い手なんて、次から次に出てくるのも事実。

大半は途中で埋れて、はい終わり。が多いんだよ。


実際に自然消滅したグループなんていくつもあるし。良くて一発屋」




あぁ、確かにSNSでは自己紹介動画を上げて、その後、解散した。と、聞いた事がある。


原因は内部分裂だったり、

大手さんのパクリ疑惑だったり、

理由は様々。




沢山の歌い手や配信者がなりたいと思う、大手という立場、地位は簡単には手に入らない物で。


もし手に入れたとしても、


どこかに落とし穴が待っている。



「オレたちは、たまたま運がよくて今伸びている。でも、運すらも味方に付けれてこそ…だと思うんだ」


『運、か』


「そう。オレらの出会いだって運だし、オレたちが同じ学校なのも運。オレらの枠にたまたま来てくれた、見つけてくれた子たちも、


配信時間がズレていたら見つけてすら貰えなかった」





その奇跡みたいな出会いを無駄にしたくない


そう呟いたりとは穏やかな笑みを浮かべていた。



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