第10話-距離、


「んで、オレ的にはね古参であるリスナーも大事にしたいけど、新しいリスナーさんを捕まえたいわけ」


熱弁しているのは、佳名斗で。

ただいま昼休み。

教室は沢山の生徒が残って昼ごはんを食べているため、自然と居つく様になった中庭。


年期の入ったベンチに座り、盛り上がる話題は言わずもがな活動内容の話し。



温かい日光と、時折吹く生温い風。


もうすぐ梅雨がやってくる、そんな季節。



あまりにも流れる時間が穏やかすぎて、気づけば佳名斗の声がBGM化してきていて、重くなる瞼。


「って、眠そうだな誠。寝るか?」


『ん…だいじょぶ』


横に座っていたりとが、オレに話を振ってくる。

それにゆるり、と首を振り。目蓋を擦った。


「ぜったい誠昨日遅くまで起きてたな〜」


「そういう佳名斗は何時に寝たんだよ」


「ノーコメント!てか時間見てないもーん」




気づけば話が脱線し、船を漕ぎ始めたオレ、


じゃれ合う、りとと佳名斗


そして横に座る大賀


ベンチに並んで座っている順は、大賀、オレ、りと、佳名斗で、


会話が盛り上がる二人を他所にオレは、欠伸をかみ殺す。



「寝とけ。少ししたら起こす」


『ん…、でも、』


不意に頭の位置を大賀の肩へと導かれ、恐る恐る視線だけ上へと向ければ端正な顔があった。


この角度でもイケメンか…、


なんて意味の分からない突っ込みを入れつつ、オレの意思と反して下がる目蓋。


起きていたいのに、引き摺り込まれる感覚




渦の中に溺れる、あの感じ。


それが嫌なのに、


「側にいてやる」


いつもと変わらずぶっきら棒な声に、安堵した



『ちょっとだけ、…だから』



不安を掻き消す様にして香るシトラス


少しだけ寝たら起きるから、


そう自分自身に言い聞かせて、オレは意識を手放した






***


一定のリズムで寝息を立てている誠。

長い睫毛は下り、綺麗な瞳を隠す。


「おっ、誠っち寝ちゃったか」


「しっ。起きたらどうすんだよ」


りとを押し除け、誠を見ようとする佳名斗にりとは呆れ気味に呟いた。


「目の下、クマが凄い」


ぽつりと溢された声は低く、相変わらずの仏頂面


口数が少なく、きっと道端でぶつかれば相手が平謝りするレベルの、切れ長な目。


一見、冷めている様にも見える瞳の持ち主、大賀は肩に頭を乗せて眠る誠の頭を片手で支えつつ、髪の毛を撫でていた。



その表情はとても穏やかで、所謂ギャップの差が凄い




「誠って不眠症かなんかだっけ?」


「いや。そんな話し聞いた事ないな」


「ゲームに没頭した、とか」


「「ありえる」」



すやすやと眠る誠の寝顔は幼さが抜けきてれおらず、年相応というよりは中学生くらい見えてしまう


いつもはどこか一線を引いている様に見える誠


それが大人びて見える時もある、が。正直、オレはもどかしさを感じていた。仲間なのに、


手が届く距離なのに、


時折、どう接していいか分からなくなる事がある



「あっ、そーいえばマネージャーさんから今日、話があるんだっけ?」


不意に切り出された話は、今から話そうと思っていた内容だった。


「ああ。さっき佳名斗が話してた内容だと思う」





オレたちは今、波に乗っている。


けれど安心はできない。なぜなら足場がまだ安定している、とは言い切れないからだ。


つい先ほど佳名斗が言っていたように、もっと繋がりを増やしておきたい


が、波に乗っている今だからこそ次に何をすればいいのか迷ってしまう。下手に新しいジャンルに手を出して、人気が下がるのでは。と。




「第三者の意見は有り難いし、できれば全員でマネさんと会いたいと思うんだ。どうかな?」


「さんせーい」


「オレも賛成」


「じゃ、誠にはまた後で話すとするよ」



そっと声のトーンを落とし、気持ち良さげに寝ている誠へと視線を移せば、むにゃむゃと唇を動かしていた


小動物みたいだな、


と、一人内心で呟いていたオレは気づかなかった。





無意識に目元が緩んでいた事を。

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